国ブン手稿

主にアマチュア採集家が国産ハナムグリ×クワガタの生態に迫るブログです


更新頑張ってますが気が遠くなります。文字数卒論(笑)の倍は書きました。めげずに頑張りましょう、頑張る...

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1.基本情報

和名:アオヒメハナムグリ
学名:Gametis forticula forticula (Janson,1881)
体長:13.3〜16.5
分布:近畿以西、四国、九州、対馬、甑列島、大隅諸島、トカラ列島、奄美諸島、沖縄諸島

2.形態

オキナワコアオハナムグリの別名が表す通り、コアオハナムグリを少し大きくして、毛と白点を減らしたような風貌。体色はコアオよりも鮮やかな深緑色〜黄緑色で、本原亜種は光沢を欠く。また、コアオハナムグリと異なり顕著な色彩変異は存在しない中胸腹板突起は細く突出した先で楕円状に広がっており特徴的だ。(あくまで個人的な感想に過ぎないが)最大の特徴は腹面の色彩で、鮮やかな赤褐銅色を呈する。
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雌雄判別は前脚ケイ節で行う。
オス(1枚目)とメス(2枚目)を比較すると後者の方が幅広であることがわかる。

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幼虫は比較的カナブンに近い形状をしており、表皮が非常に柔らかく体毛が濃い。また、他種と比較して腹部が太くなる傾向にある。下画像のように、C字型に丸まる擬死行動を取る。

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3.生態

幼虫は上記画像のようにリター層直下の砂混じりの土壌を中心に生育し、飼育下であれば2ヶ月あまりで成長を完成させる。私は確認していないが、樹洞等からも得られるそうだ。開けた場所であれば環境を厳しく選ぶことはないものの、林縁や海岸林等に個体数が多い。恐らく本土や九州島嶼に生息する個体群と以南の個体群では活動時期やサイクルが異なる。前者はコアオハナムグリと同じく晩夏に羽化した個体が活動し越冬後、春季に産卵を行うものと思われる。後者は大まかに前者と同じだが、春季に産卵された個体は2ヶ月ほどで羽化し初夏に産卵、初夏に産卵された個体は秋季に羽化し越冬を行う、つまり年に2回、あるいは数回サイクルが回っているのではないか。成虫は各種の花を中心に利用するが、他の訪花性ハナムグリよりもバナナトラップへの感応度が高く、普通に個体数が稼げる。成虫の活動時間は外気温が上がると午前中に偏り、飛来ピークは午前10時頃。

7月に採集した本種
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4.採集

南西諸島においては3月以降、本土においては4月下旬以降、各種花のルッキングやスウィーピングで得られる。本土において6月〜8月にかけては個体数が減っている、もしくは見られない可能性がある。バナナトラップも有効だが気温が上がらないと効果を得にくい。島嶼部であれば本種が7.8月にも活動していることからバナナトラップも十分に効果を発揮する。幼虫、新成虫共に季節を問わず堀りでも採集が可能だ。林縁、海岸林の、各種腐植物の堆積物直下や、砂が混じる土壌の比較的浅い箇所から得られる。

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5.飼育

本種を含めた訪花性ハナムグリ野外品の産卵や幼虫育成は極めて容易だ。活動中の成虫を採集した場合でも越冬中の成虫を採集した場合でも適当な用土に放り込んでおけば、3、4月以降勝手に産卵を行う。むしろ幾ら加温しても冬季には産卵を行わず、体内時計が比較的しっかりしていることが窺える。野外品を産卵させると幼虫は遅くとも夏頃までに羽化する。成長スピードは極めて早く驚くこと間違いなし。この際、産卵用土や幼虫の飼料はどんなものでも問題ないが、強いて言えば黒土や川砂を混ぜた方が栄養過多、不全等のリスクを減らすことができる。これらの個体は休眠を挟まずすぐさまハッチ、活動を開始するためエネルギー切れを起こす前に後食をさせる必要がある。問題はその後で、春の野外品をセットする際と同様の環境で産卵セットを組んでも産卵に至らないことから、人為的、あるいは屋外放置等による越冬が必要と思われる。越冬後に体内時計を機能させる必要があるか否かは未検証だが、おそらく日照時間変化等の刺激が必要。


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1.基本情報

和名:ホソコハナムグリ
学名:glycyphana(glycyphaniola)gracilis viridis
   Sawada,1942
分類:ハナムグリ族クロハナムグリ属
体長:10.8〜12.4mm
生息:神奈川以西(?)確実には近畿以西、四国、   九州、種子島、屋久島

2.形態

ホソコハナムグリの名の通り、細くて小さい以外にこれと言った特徴がない。極めて失礼だが日本最小のハナムグリ亜科という他以外に特徴がない。色味はアオヒメハナムグリをより鮮やかにした緑を基調に、上翅の肩口を中心に体の側面や前胸辺縁部、腹面の側部が白く縁取られる。頭部は黒色腹面は褐色で、腹部以外に金属光沢は見られない。絵の具の原色をそのまま厚塗りしたかのようなマットな質感だ。これら背面はあくまで被覆物の色彩であり、下地は薄い金属光沢を呈する。屋久島の個体群は上翅に白紋が出現する他、他地域においても幾つかの変異が見られる。
頭部上辺縁部は切れ込み側面中央部で出っ張る(変に言えば上部が切れ込んだキノコみたいな形)。上翅(胴体)は中脚のあたりでやや強めに湾入する。雌雄判別は後脚のフ節で行い、オスの方が若干長くなるものの判別は難しい。
幼虫は同属であるクロハナムグリとほとんど同じ形態で、朽木やフレークを食べる傾向にある種特有の長細い胴体が特徴的。成虫は盛んに擬死行動を取るが、朽木食の例に漏れず幼虫は極めて活発。

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3.生態

一般的に近畿以西(一応は神奈川以西?)に生息しているため、関東在住の筆者としては馴染みが薄い。ポイントは局所的だが、奈良県や京都府の一部においては少なくないらしい。5.6月と9月に多く観察されている他、飼育下においても6月にセットした個体が9月頃羽化し後食を行った。

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このことからコアオハナムグリ等と同様に、秋口に羽化した新成虫が後食後に越冬し産卵しているものと思われる。
同属のクロハナムグリと同様に、新成虫が朽木や立ち枯れから得られることは有名だ。幼虫も朽木から発見されているらしいが、私の身の回りでは確認事例を聞いたことがない。活動中の成虫が朽木に飛来する事例も確認されているが飛来自体が越冬場所を探すためなのか、産卵のためなのかは不明。

4.採集

本種は私が自ら採集をしていない種の一つであるため、情報量が少ない。(情報発信する際に自分で観察したか否かを明記するの大事ですよね)
聞き及ぶ所によると、所謂近鉄が重点的に走ってる辺りの平地や林縁で、シーズン中に花を掬う、オフシーズンに朽木を割り偶然に近い確率で採集するといった手法が選択肢として挙げられるのではないか。

5.%椅子

野外品の成虫は産卵、幼虫育成共に通常の市販マットで難なく行うことができる。産卵された幼虫は秋口には羽化し、程なく自力ハッチをして活動を開始する。その後給餌したものの産卵や越冬には至らずそのまま死亡した。
f1以降の産卵には後食後の越冬、日照時間変化等の体内時計を調整する材料が必要なものと思われる。

6.余談

関西以西を中心に分布する種はキョウトアオ、シラホシ、アオヒメハナムグリと言ったように少なくない。これらの種は照葉樹林に依存、とまでは行かずとも比較的重点的に生息していたり、単純に暖地性の種であったりする。ホソコハナムグリが関東で見られないことにも同様の要因が関係しているのではないか。しかし、分布域が広いながらもポイントが局所的であることには疑問が残る。
ポイントが局所的なハナムグリ亜科の代表種としてアカマダラハナムグリが挙げられる。アカマダラハナムグリは大型鳥類の巣材といった特殊な環境を発生源としていることから、本種も何か地域に依存する特殊な条件下の環境を利用しているのかもしれない。本種は成虫の観察事例に比べて幼虫の観察事例が少ない。無条件で適当な朽木を利用しているのであれば、観察事例も増えて然るべきだろう。例えばの話、本種の観察事例が多い奈良、京都、兵庫および以西の一部地域では、カシノナガキクイムシの被害が顕著だ。同様の被害は新潟や山形等日本海側でも確認されているが、上記の通り本種が暖地性であると仮定した場合、分布していない旨が説明できる。また、現在カシノナガキクイムシは東に分布を急速に拡大しつつあるが...



 

お久しぶりです。

私事で恐縮ですが、この度大学を無事4年間で卒業しました。同時に、2016年より始めた当ブログに投稿予定の記事材料集めも殆ど終わりに近づいてきています。さて、当ブログは国ブン手稿と銘打ち、ハナムグリに関する情報のみを発信すべく、これまで「クワガタの採集記」は全て非公開にしていました。しかし、筆者の私もクワガタキッズの端くれです。記念すべき学生時代最後の記事ということもあり、今回は例外として掲題の通り「ヤエヤマコクワガタの幼虫採集」こと夢の1本をお送りいたします。

1.留意した事項

今回の西表島におけるヤエヤマコクワの材割採集は以下の点に留意しつつ実施いたしました。

・感染状況を踏まえ、マスク手洗い消毒等の徹底、現地の方との接触を避けることを意識。加えて石垣到着時点でのPCR実施(当然ですが陰性でした)

・国立公園法における特別保護区、及び第一種保護区での採集は避ける

・林野庁管轄の自然保全利用地区での採集は避ける(そのような地域でヤエヤマコクワが採集できるのか、という問題について、ライトトラップのポイントとなっている箇所や、市街地等の街頭でも拾えることを加味すれば自ずと疑問は消えるのではないかと思います。また採集行為自体にも賛否両論あるかと思いますが、採集の自粛が求められている保全利用地区においてすらマルバネなどを採集しに入山する方々が多く存在する以上、本行為のみが特別咎められる謂れはないと考えています。)

・上記2点の地域を避けた自然保護利用地区では、枯木の伐採や昆虫採集等が規制されている訳では無いものの、当該地区設定の本義に照らし合わせ、必要以上の破壊行動等は避けるよう努める。(道具を用いた材割は行わず、素手による採集を行う。素手で材割が出来るのか?という疑問についても読み進めて頂ければ解決するかと思います)

また、西表島においてはレクリエーション目的以外での入山について事前の申請が推奨されていますが、レクリエーションの範囲に昆虫採集を含めるか否かという問題はあくまで自己判断に委ねられていると判断したため、今回は当日の入山届提出に留めました。

2.プロローグ

遡ること6年2016年の夏、私は某即売会で知り合った方に、当時は市場でも希少だったヤエヤマコクワの産卵について質問をしていました。ヤエヤマコクワといえども、所詮はアマミコクワの亜種です。アマミコクワの産卵方法で爆産するのではないか、と思うのが定石でしょう。
当時聞いていたアマミコクワの産卵セット内容は「水分多め柔らかめの朽木を、マットに半分埋める」といったものでした。この手法は、通説で語られているアマミコクワの幼虫生息環境を想像すれば、まさしく理にかなっているものです。アマミコクワの幼虫は、沢沿いの倒木や立ち枯れに入っている、そうです。当時は現地に行って確かめる術がないため、私はこの情報を鵜呑みにし、アマミコクワだけでなくヤエヤマコクワもこのようなセットで産卵させていましたが、産卵数はワンシーズン10数個と振るわない結果でした。対して知人は、30個前後の産卵数を叩き出しており、私は気になり産卵方法を聞くに至ります。
すると、返って来た答えは意外にも「柔らか目のカワラ材をフタマタみたいに転がす」といったものでした。おや?私が聞き及んでいたセット内容と違うぞ、と。そして同時に、このような一言を頂きました「従来提唱されているアマミコクワの産卵する環境と、ヤエヤマコクが同じ環境に産むのであれば、ヤエヤマコクワの幼虫もとっくに見つかっているよねといった文言です。そうです、2022年現在、本種が初発見された1994年より、ヤエヤマコクワの幼虫は未だ発見されていませんでした。なるほど、なんて斬新な考え方なんだろうか、当時は感動したものです。「幾ら幻のクワガタといえども、所詮はアマミコクワの亜種、同じ環境に生息しているのが当たり前だろう」と、常識に囚われていた自分の恥ずべき姿を認識しました。学者やプロの採集家が、何人も西表島に赴いて、アマミコクワ如きと同環境に生息する昆虫を採集できないわけがない。つまり、ヤエヤマコクワは我々が想像もつかない突飛な環境に生息するのだ...と、当時は思っていました。この言葉はロマンへと変わり、何年も私を焦がす材料となりますした。何せ、国産クワガタ約80種のうち、現在幼虫の居場所が判明していない種はこのヤエヤマコクワの他に存在しなかったからです。(だよね?)

3.ヤエヤマコクワ概説

殊更説明するまでもないでしょうが記事の尺を増やすため今回のターゲットについておさらいします。

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和名:ヤエヤマコクワガタ
学名:dorcus amamianus yaeyamaensis hori 94
分布:西表島

当該種はアマミコクワd.amamianus amamanusの八重山亜種。ネット上には石垣島での採集記録が転がっていますが、少しでも採集に携わる人からすれば全くの嘘っぱちであることがわかる劣悪な記事です。コクワと銘打たれていますが、どの亜種もコクワとは打って変わって個体数は多くなく、特に本種はかなり個体数が少ないようです。加えて、風貌や系統はヒメオオクワガタに近く、樹上性が強い他、比較的標高のある箇所を好みます。
飼育下ですら産卵数は多くないものの、十分な餌があれば3年程度生存するなど寿命が長い傾向にあります。本種は主にバナナトラップやライトトラップといった「どこにいるか特定できなくても採集できる手法」により採集されています。ヤエヤマコクワも例外ではなく、6月前後を中心に極めて高所のバナナトラップや、ライトトラップで得られています。本種は94年の記載後、11年まで複数頭(5頭とかだったような)しか採集されていませんでした。そのため、随所で「幻のクワガタ」「採集日本最難関」などと謳われている様子が散見されます。個人的には先達が発見したポイントでライト焚いて待つだけの通えば絶対に採集できる採集で「難しい」だとか、林道(道があるのに!)を10キロ歩く程度で「キツい」とか言ってしまうのは如何なものかと思います。ライトトラップのポイントが発見されるなど、本種の採集自体は「採集最難関」では無くなったものの、相変わらず生態、つまり幼虫や成虫の食性判明はしていません。一方で、アマミコクワやリュウキュウコクワ等に関しては「沢沿いの倒木や立ち枯れ」に入るとされています。要するに理論的には西表島で沢沿いの倒木や立ち枯れをくまなく探せば材割採集は可能というワケです。

最後に、本亜種の形態について軽く触れておきます。本亜種は高額なため、市場には所謂他亜種との「交雑モノ」が出回っています。交雑してしまった個体を完全に見分ける手法は残念ながらありませんが、本種の特徴を抑えておくことで「らしい」個体を選ぶことはできます。

・雌雄共に安定して赤褐色の体色だが、奄美徳之島にも同様の変異は見られる。
・オスは前胸部と胴体の太さが同程度で、前胸は頭部にかけて寸詰りになっている。他亜種は前胸部が太く、四角形寄りになる。
・オスの頭部、前胸は艶消しになるが他亜種は光沢が腹部と変わらない。
・オスの頭盾は平らになる。他亜種はアーチ状
・メスの前胸辺縁部の点刻は他亜種と比べて密になる
本来はかなり特徴が際立つ亜種であり、国産種の中でもかなり上位の人気を誇ります。

4.調査〜他亜種の生息環境〜

私が初めて累代に成功したクワガタは沖縄亜種のリュウキュウコクワであり、初めて1万円以上の買い物をしたのは、当時は高価だったヤエヤマコクワそのものでした。何を隠そう私は本来コクワガタが大好きです。しかし相手は幻のクワガタであり、私のようなアマチュアがいきなり狙っても採れる相手ではないでしょう。実の所、ヤエヤマコクワを採ろうなんて大それた目標は当初全く抱いておらず、学生時代終盤になり、ある種の腕試しをしたくなり、ようやく計画するに至った次第です。

そもそも本来ハナムグリ屋の私は、クワガタのために西表に裂く時間と金銭的余裕がありません。そのため、身近な採集や行く先々で近縁種や亜種の採集を行うことで断片的な情報を集める策を取りました。ちなみに西表島自体は別種の採集で過去にも赴いていましたが、当時はサキシマアオカナブンや◯ちゃんに精一杯で時間の余裕もなく、手がかりすら掴めていません。

4-1 本土近縁種

借金に塗れ島に赴くことができずとも、出来る事は幾らでもあります。友人との付き合いがてら幾度となく赴いていたヒメオオ採集やオオクワ採集では、しばしば立ち枯れや倒木を狙うことがありました。しかし、一口に倒木といえども虫が入る倒木と入らない倒木があります。違いとしては「朽ちてから倒れている」か「倒れてから朽ちているか」といったものです。当然前者の方が菌の周りが綺麗で、枯れ方や虫の入りが断然良い傾向にあります。また、倒木から虫を出すにあたって「立ち枯れに虫が入った後に、木が倒れている」のか「木が倒れたのちに虫が入ったのか」といった事も考えるようになりました。また、オオクワ採集では親虫が飛来しやすい立地植生風通し等を常に考える姿勢を身に付けるに至りました。

そして最後に、高校時代もとい三重時代の、なんでもないような「コクワガタ」の採集経験が役に立つこととなります。中高時代、ヒラタやノコギリの採集に勤しんでいた私には「本邦におけるクワガタは、基本的に羽化に至ることのできるサイズの立ち枯れや基本的に接地している倒木、埋没材といったように、幼虫が活動できる体積がある程度確保されている環境に生息するもの」との先入観があったため「腕ほどの細さしかない樹上の枯れ枝を平地の中大型クワガタは積極的に利用しない」とすら考えていました。三重県は関西and雨量が極めて多い土地柄のせいか、倒木からはオオゴキブリばかりが出土します。たまのクワガタもノコやヒラタが入り混じるなど、関東では腐るほど目にしていた「コクワガタだけが出る環境」というものが少ないことに違和感を覚えていました。そんなコクワガタのみが出る環境を見つけたのは、飼育に使えるであろうカワラ材を伐採集めている時で、コンクリートで舗装された道に落ちている枯れ枝を割ると、コクワのみが出てきたといった経験があります。他の島においてもコクワガタ(レクトゥス)の採集に苦戦した際は、島民が捨てたホダ木であったり、立ち枯れが倒れたものなど、前述した通りの「朽ちてから倒れた物件」に救われていたものです。これらの経験が、奄美や徳之島での発見に繋がることとなります。

4-2 アマミコクワ

次なるターゲットはアマミコクワガタです。本来奄美にはオオシマアオハナ原名の記事を書く為に訪れています。滞在が1日かつオオシマアオハナの採集に手間取ってしまい、アマミコクワ捜索にあたってあらゆる環境を試す余裕はありませんでした。そのため、始めからセオリー通りに標高を上げて沢沿いに向かいます。

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手当たり次第倒木を割りますが、出てくるのは案の定ゴキブリ、ヒラタや別の固有種。結果的にアマミコクワが出た材は湿度もそれほど高くない立ち枯れでした。

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ちなみに別のクワガタさんとは顎の付け根の色や頭の形等で、ヒラタとは顎の湾曲や下唇の大きさ等の特徴から、容易に判別が可能です。アマミコクワは頭の形が角ばっており、顎の付け根にかけて入れ込んでいることが特徴で、顎の付け根の色や顎先は本土コクワと似たものになっています。

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個体数が減っているとはいえ、かなりの本数を叩いたにも関わらず「湿度の高い沢沿いの倒木」には個体数が少ない。このことから、アマミコクワは本来他の環境を好むのではないか、という可能性が浮上しました。また同時に南西諸島はただでさえゴキブリやシロアリの個体密度が高く、ヤエヤマコクワが倒木に生息しているという可能性は限りなく低いのではないかとも考えました。

4-4トクノシマコクワ

次に赴くは徳之島です。こちらも滞在時間が1日しかありませんでしたので、奄美での反省を活かし先にクワガタから捜索した所、今度は危うくオオシマアオを確保し損ねる所でした。ハナムグリが稜線に多い一方で、クワガタ類は圧倒的に沢沿いの方が採集しやすい、と言う事情が両立を難しくしています。ちなみに、徳之島のオオシマアオは全亜種中最も光沢が強い美麗種です。別記事で紹介中なので是非ご覧あれ。

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先の奄美にて、沢沿いの倒木というステレオ環境を狙う非効率性を理解したものの、アマミコクワを得た立ち枯れという環境は、絶対的な本数が少ない上に、ゴキブリやヒラタ等が多く入ります。ここで、三重で経験したコクワのみが入る物件を思い出し「ヒラタが入らない程度であろう太さの落ち枝」を探す作戦にシフトしました。程なくして、手首ほどの細い落ち枝から幼虫を確保。オオクワ採集時に意識していた「開けた立地」にも該当しており樹上性の本種でも活動しやすい旨が窺えました。

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一匹見つければ付近に数匹いるのがクワガタの鉄則...という持論はオオクワ採集を以て打ち砕かれたのですが、念の為付近も確認します。結果、同様の物件から追加で成虫を確保。それでも同一物件内の個体密度はかなり低いです。ちなみに、採集時は2月でもあったにも関わらず割り出し後に程なくして活動を始めています。

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その後も複数頭採集しましたが、やはり本種のみが得られた材は「落ち枝」で、更に詳しく述べると落ち枝はどれも白色不朽菌により極めて柔らかくなっており、手で潰せる程度のものでした。画像を見ていただければ分かるかと思いますが、木質の繊維が極めて明瞭になっており、幼虫自身も繊維に沿って食い進んでいることが分かります。一方で沢沿いの倒木や立ち枯れからは、やはり別種のクワガタが出土するばかりで、コクワと思しき個体は得られませんでした。これでなんとなく本種が利用できる環境が見えてきましたね。

「直径5センチに満たない白色腐朽落ち枝」

さて、本種の生息環境を予想するにはヒメオオ採集で散々考えた「虫入ってから木が倒れているのか」「木が倒れてから虫が入っているのか」これらの差異を検討するべきでしょう。まず枝が地面に落ちてからコクワが入るケースですが、これに関しては可能性が少ないと考えられます。本種の入る枝はただでさえ柔らかく朽ちており、このような材が一度地面に落ちてしまえば、朽木食のゴキブリやシロアリ、その他雑虫等により分解されてしまうでしょう。他にも雨による浸水や獣等による捕食、様々な危険要因が存在します。つまり、樹上の朽ちた枝にコクワが入り、中を食い進むことで、菌の腐朽作用と併せて枝自体が柔らかく脆くなり、枝自身の自重で落下したと考える方が良さそうです。

また、以上の旨より、南西諸島においてアマミコクワ「のみ」が利用する環境とは、白色腐朽菌により朽ちた樹上の細枝であることが予想されます。このような物件は樹上での生活に適応してきた彼らだからこそ、利用し得る物件と言えるのではないでしょうか。勿論従来の説通り、沢沿いの倒木や立ち枯れ等も利用するのでしょうが、このような環境では他種との競合に打ち勝つ必要が生じます。虫にとってストレスフリーである物件がどちらか、我々が効率よく採取する為に探す物件がどちらか、言うまでもありません。加えて、沢という環境は、斜面に落ちた枝や倒木が集積される地形でもあると同時に、沢沿い自体にも木は生えており、上を見上げれば朽ちた枝が存在することもあります。
一口に沢沿いの「朽木」に生息するといえどもアマミコクワが「虫が入った後材がなんらかの影響で沢に移動した材」である一方、他のクワガタ類は「材が沢沿いに移動してきた後に産卵しに来る」と考えれば棲み分けが為されていると考えられるのではないでしょうか。

さて、冒頭に触れたヤエヤマコクワガタの産卵方法を思い出してください。
柔らか目のカワラ材をフタマタみたいに転がす
そうです、野外においてよく朽ちた落ち枝が転がっている状況は、ヤエヤマコクワの飼育法と重なります。そして「アマミコクワの産卵する環境と同じ環境に産むのであれば、ヤエヤマコクワの幼虫もとっくに見つかっているよね」
私は改めてこの言葉を反芻すると共に、下記のように解釈しました。

「アマミコクワとヤエヤマコクワの食性が異なるのではなく、アマミコクワの生態自体が曖昧に解釈されていたのではないか。」


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どうせ垢バレしてるだろうし多少はね?

これにて仮説が整いました。
後は実地に赴き検証を行うのみです。

5.ヤエヤマコクワの採集と環境

ヤエヤマコクワがこれまで採集されてこなかった理由や生息環境に予想を付けた上で、勝算ありきの出陣です。無謀な挑戦では決してありませんでしたが、それでもやはり前人未到のハードルは高く感じます。今回はかなりハードスケジュールで、先週まで遠征していた手前出発し石垣でサキシマアオを回収し、与那国のハナムグリを全種回収、西表島に2日間滞在する、と言う日程でした。

滞在日数が少ない理由としては石垣与那国を経た上で、集中力と体力をフルで発揮できる日数の限界が2日間だと判断したからです。本音としては学生最後の時間を虫採りなんかに費やしたくありませんでした。余談ですが、前々回の屋久島口永良部では屋久島の高山で雨の中夜通し材割りした結果口永良部で熱を出し(当たり前)、前回の奄美徳之島沖永良部では鳥刺にカンピロバクターを食らいながら採集、本遠征は、石垣着いてすぐ受けたPCRが陰性だったものの、直後に再び発熱、サキシマアオを確保してからは流石に車内でずっと寝込むといったように、こかなり身を削っていた自覚があります。

そんなスタートを切った先、石垣でも「らしき材」には手をつけましたが、やはり出るのはサキシマヒラタばかりです。

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続く与那国ではチョコラやアリナミンなどの力を借りつつハナムグリを採集。普通に生活していてコンビニ栄養ドリンクの力を借りることはあまりないかと思いますが、体調が悪い際や踏ん張りたい時にはかなり効果があると感じています。お勧めです。

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与那国のヒラタやネブトなども一通り出しつつ

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夜間採集ならではの生物と戯れ

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4大珍蛇の一角ことミヤラヒメヘビにも遭遇。

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ハナムグリなども無事確保し、与那国島を発ちます。そしてついに2年ぶりに上陸した西表、これまでの遠征では軒並み悪天候に遭遇してきたものの、今回ばかりは見事なまでの晴天だったこともあり、体の芯から採れる確信が湧き上がっていました。

与那国から石垣に戻り、西表に着いた頃には既に夕方だったので、この日は翌日に備えるつもりでした。そして荷造りをしている際、なんと与那国島に7年付き添ったブロハンを置き忘れてしまったことに気づきました。完全に余談ですが、この辺りの心境もツイッターに書いていたため後から見返すと笑いが込み上げてきます。

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ブロハンを生贄に捧げたお陰かはたまた学生最後の採集に臨む気概が引き寄せたのか、やはり不幸と幸福は代わる代わる訪れるものです。タイトルに書いてしまっているので隠す必要は全くありませんが、結果的に僅か1頭ではあるもののヤエヤマコクワ幼虫の採集に成功しました。肝心の周辺環境や材の具合は以下の通りです。

まず環境です。西表のように手付かずの原生林が占める土地において、我々の手の届く高さで湿度を確保しつつ虫の飛来に支障をきたさず、白色腐朽菌の成長に適している環境には沢沿い周辺や、ギャップ、舗装されていない林道といったものが挙げられます。(下載画像の枯枝から採集した訳ではないもののイメージとして掲載)

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沢沿いにはそのような環境が多い反面、現実的に採集を行う落下材が浸水しがちというリスクを孕んでいます。今回は結果的に標高200メートル弱の稜線から採集に至りました。

物件の状態としては、やはり柔らかく朽ちた細枝でした。地上6メートル程の高さから落下したであろう落ち枝は既に殆どが砕け、分解されており相当に柔らかいことが分かる物です。不思議なもので、材を目にした時には既に入っている確信が持てました。掴むように崩すと、早速立派な食跡が出現します。

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この時点で写真を撮り、震える手足を抑えながら成虫の出現に備えて動画を回していたのですが、食跡の主は既に抜けていたようです。
当時の気温は22度を優に超えていました。徳之島コクワが割り出した後、すぐさま活動していたことを加味すると、本種が活動を開始している可能性も否めないのではないかと思います。落胆したのも束の間、代わりに2齢と思しき幼虫が出現しました。

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樹種はシイでしたが、これはさしたる問題ではなでしょう。実の所、この時点で時刻は午前11時ごろで、普段であれば時間ギリギリまで粘って...というパターンが多かったため、呆気なさに開いた口が塞がりませんでした。なんなら前々回のヤクスジや前回の徳之島アオは終了ギリギリで出しましたし与那国チャイロに至ってはレンタカー返却時間10分前にポイントを見つけた次第です。

加えて3齢と思わしき食跡の主が抜けてしまっていたことへの落胆や、残り時間を如何に使うかといったことで頭が一杯で、嬉しさが全くついて来ませんでした。一方で、他種(ヒラタ)である可能性に対する不安は全くと言って良いほどありませんでした。幼虫の形態については後ほど詳しく触れます。

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まず目に入るのは顎の形状や頭部の色でした。
次に体躯ですが、ヒラタ初令にしては大型なで2齢にしては小型といったサイズです。また、頭幅と胴幅の比率も判断材料になります。

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その後も日が暮れるまでみっちり藪を漕ぎ、沢を登ったり降りたり、稜線なども含め開けている環境を中心にかなりの範囲を散策しました。

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しかしながら、上記のような物件や、これまでの経験を通じてイメージしていた物件には移動時間を除く約14時間の採集を通じて、僅か2件しか巡り会えませんでした。立ち枯れ等にはやはりヒラタが入ってしまいます。

帰るまでヤエコだと無理やり自分に言い聞かせてたヒラタ2齢()FullSizeRender

また、アマミコクワ系統が利用する枝程度の柔らかさであればまだしも、ブロハン無しで割れる硬さの材は極めて限られています。なんらかの道具を所持していれば(環境保護の観点からは好ましくないものの)より個体数を稼げた可能性もあります。一方で、むしろ割る本数を極限まで絞り、確実に入っているであろう物件を探したからこそ採取に至ったのではないかと思う節もありました。なんにせよ改善余地は幾つかありそうです。今回は水や食糧が底を尽き靴やズボンも破れてしまったので退散。ついでにスマホのカメラも壊れ、裏世界西表に突入。

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最終日も山に入りましたが、流石に体が限界に近く、1つの斜面しか手をつけることができませんでした。こちらはハズレだったようで、ヤケクソにカバイロなどを摘みつつ終了。

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最後の遠征はいつもの港です。最普通種コクワガタから始まった私の青春は最難関種ヤエヤマコクワ採集で締め括られました。

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ヒラタとの幼虫形態比較
肝心の採集物について、注目するポイントは以下の通りです。これも説明するまでもありませんが、本島においてヤエコと形態が似ている種はヒラタのみとなっています。

・頭部形状、頭幅と体の比率
コクワの頭部は、大袈裟に言えば上辺の方が長くなる台形。友人曰く「グッときてキュッ」。一方ヒラタは四角形に近い。また、ヒラタの顔にはハの字の凹みが深く刻まれる。

・頭部、顎基部色
ヒラタはコクワと比べて格段に色が濃い。尚、頭部の色は餌の水分量等で多少変化するので過信しない方が良い。顎基部の色彩はコクワの方が薄く鮮やか。

・顎湾曲
一番確実な判別方法だと考えている。コクワの顎は外側内側共に湾曲が少ない。加えて顎の中央部外側で急に細くなる。ヒラタは根本から顎先まで緩い湾曲が一直線に繋がる。

・唇(?)の面積
両顎に挟まれている箇所(唇?)の面積。コクワの唇は顎中央部手前で途切れているが、ヒラタのソレは顎の中央部を越えて広がっている。

ヤエコ2齢
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ヒラタ2齢
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ヤエコ3齢加齢直後
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ヒラタ3齢加齢直後
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特徴は言語化しにくい事この上なく、上の記述でニュアンスが伝わるか不安です。各自見比べてください(投げやり)

6.ヤエヤマコクワ幼虫生態のまとめ

一度ここでヤエヤマコクワの幼虫生態に関して整理します。また、今回は普段のハナムグリ記事と異なり観察事例が極めて少ないため、あくまで私個人の私見、仮説と捉えてください。

1.生息(利用)環境
生息域は島の中央部等に限定されていない。他希少種のように古木が立ち並ぶような環境を必須としている訳では無いと予想。恐らく必要条件は150メートル以上の標高かつ湿度と風通しを両立した環境。

2.産卵を行う箇所
本亜種、ならびに他亜種の採集例を踏まえると風通しが良く白色腐朽菌が成長しやすい樹上の枯れ枝を利用することがわかる。確定していることはあくまで「利用できる」事実のみに留まっており優先的に利用しているか否かは不明。ただ、従来提唱されていた「沢沿いの倒木や立ち枯れ」には高確率でサキシマヒラタが入るため、競合の必要性が発生する。対照的に樹上の物件はヒラタにとって利用しにくい環境であるため本種が落ち着いて生育しやすい環境と言えるのではないか。

3.予想される発生サイクル
今回は3月上中旬に2齢後期幼虫が得られた。この事から、本個体は秋頃産卵されたことや羽化時期が概ね7月以降と予想できる。にもかかわらず、本種の交尾済みのメスは6月を中心にライトトラップで得られている。今回採集個体が標準的なサイクルを送っていると仮定した場合、本種は夏〜秋にかけて羽化した後、春先まで成虫休眠しているもしくは後食後に再度休眠に入るといった、ヒメオオクワガタと類似した発生サイクルを営んでいるのではないか。休眠個体は春先から夏頃(◯ちゃんシーズンにメスが得られている例もあるため、晩秋まで産卵を行っている可能性もアリ?)にかけて産卵を行い、新成虫の一部は秋頃に活動し、産卵を行うものと思われる。

4.飼育で得られる知見と重なる箇所
本種の最適な産卵セット方法は、マットに材を埋め込む方法ではなく、カワラ材を転がすやり方であると聞き及んでいた。今回幼虫が得られたポイントも、埋没材ではなく樹上や転がっている材からであった。また、本種は飼育下においても産卵数が多くない上に、ダラダラと産み続ける傾向にある。野外において、他のヒラタやノコギリといったクワガタは通常同じ材から多数の幼虫が得られるが、今回採集した本種を含めるアマミコクワ系統幼虫は、どれも単独もしくは2匹で材に入っていた。本種の「一度の産卵数を減らし、長い寿命を利用し、産卵行為自体の回数を増やす」という戦略は、枯れ枝という体積の限られた環境を利用するにあたり、一つの枯れ枝に産み付ける数を減らす代わりに、長い寿命を持ってより多くの枯れ枝を探すことで、一個体の利用可能な資源量を、十分に成長可能な量に増やし、生存率を上げるための戦略なのではないか。

7.これまで未発見だった理由を考える

ハナムグリ等のマイナー種や、極小のクワガタ等とは違い、本種は美麗かつ最大型亜種、かなりの人気を誇ります。何より高値がつく 当然、プロアマ問わず幾多の人々が生態を調査しできたでしょう。にも関わらず、これまで幼虫が採集されることはありませんでした。アマチュア文系大学生の身分でプロ採集家やその道の研究者に物申すのはおこがましく大変恐縮ですが、これにはいくつかの原因があると考えています。まず二つの先入観です。

1つはアマミコクワ幼虫が発見された際の生態情報が常識、先入観となり採集者を縛り続けていたこと。沢沿いの倒木や立ち枯れを利用するにあたり、西表島には奄美よりも強い競合者、つまりサキシマヒラタや各種ゴキブリなどが立ちはだかります。奄美や徳之島であれば利用できる環境も、西表で利用できるとは限りません。

次に、中大型のクワガタは樹上の細枝を利用しないという先入観。これは私の偏見になってしまいますが、クワガタ材割りにおいて樹上の枝を積極的に調べる採集者はかなり少ないのではないでしょうか。何故ならそのような物件に虫が入ることを知っていたとしても、他に個体数を確実に稼げる環境が幾らでも存在するからです。

これらの先入観に加えて、仮に「本種が樹上の枯枝を利用する」という事実を知っていたとしても、採集数が稼げないことにも理由があると考えています。西表島での採集時間は徳之島(約7時間)の3倍以上ありました。にも関わらず、ヤエヤマコクワの採集数は1匹、トクノシマコクワの採集数は8匹と、大きな隔たりがあります。
上記2種を採集した物件は共通して「柔らかい落ち枝」が中心でした。ですが、落ち枝を拾った環境に違いがあります。徳之島においては林道や作業場時にはアスファルト上など、人工的に拓かれた環境で材を拾った一方で、西表島における本種の生息域内にそのような環境は殆どなく、今回も山中で材を拾っています。
菌やクワガタ自身により柔らかく分解されかけている落ち枝が林床に放置されていれば、他の生物の手によってすぐさま分解されてしまうでしょう。徳之島においては人工的な周辺環境が落下した材の分解を遅らせていたものと思われます。一方で、西表島においては本種の入る材が落ちる先は豊富な微生物や節足動物ヤエヤマイノシシが跋扈する林床、もしくは沢の水中といった箇所でしょう。このような環境の差異が、両島の採集難易度に大きな違いを生んだのではないでしょうか。徳之島はコクワの生息域に人工的に拓かれた環境がある。西表島においても、島を横断するような舗装路が出来れば本種の幼虫は採集しやすくなるのかもしれません。
もっとも現時点で我々が空を飛べれば樹上の枯れ枝を叩いたり出来るのかもしれませんが...

最後に

これにてヤエヤマコクワの採集記、及び生態私見の記述は終わりです。西表に次回があるのかはたまた私自身に採集に行く余裕ができるのか社会人生活の先行きが全く不透明ですが、機会があれば成虫を材で出してみたいですね。若しくはこの記事を読んだ方が採集されることを期待しています。
さて、当ブログの読者様はタイトルにも見覚えがあったかと思います。当時某種の材採において、採り方を試行錯誤しつつ答えを導き出した経験は、後の3年間における私の採集スタイルの基盤となりました。言うなれば既存の情報や手法に頼りその場限りの採った採れなかったで満足するのではなく、常に経験や、仕入れた情報を組み合わせ生息環境を予測し仮説を立て現地で実証を行うといった、調査寄りの採集スタイルです。このスタイルは読者の方々に当該記事を面白いと言っていただけたために、私に定着したものでした。そして、今回の成果はこの採集スタイルだからこそ出せた物だと考えています。言うなれば読者様のお陰と言っても過言ではありません。改めてお礼を申し上げます。
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オオシマアオハナムグリ(nippnoprotaetia)の亜種紹介です。オオシマアオハナムグリの亜種は9種存在しますが、今回は原名亜種、徳之島亜種、沖永良部亜種、沖縄亜種、久米島亜種、伊平屋亜種を紹介します。南部亜種というタイトルですが学術的にそういった分類や単語が存在するわけではありません。単に私が記事分けの都合で勝手に呼称しているだけであり、他亜種との分類学上の相違等はありません。しかしながら今回紹介する亜種と、より北部に生息する3つの亜種間では、形態や生息環境に若干の違いがあるように思えます。といっても、今回紹介する種はどれも原名亜種に近い特徴を持っている為具体的な差異は北部系亜種の記事を参照してください。
基本的な採集方法、飼育方法は亜種間で差異がない為、原名亜種の記事を参照。

4.原名亜種

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詳細は原名亜種記事を参照→ http://japancetoniamanuscript.blog.jp/archives/24506372.html

和名:オオシマアオハナムグリ
学名:protaetia exasperata exasperata
体長:18.4〜21.9
分布:奄美諸島 


5.徳之島亜種
学名:protaetia exasperata nomurai
体長:18.8〜21.1mm
分布:徳之島 

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オス
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メス
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オス
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オス
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メス
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メス

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オス


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メス

形態:雌雄共に被覆物を欠き、黄緑色の強い金属光沢を持つ。個体差はあれど、鮮緑色〜柳色黄金色に近い体色を持ち、小盾板周りや上翅会合部、その他体の諸所にうっすらと桃色を帯びる。オスの前胸中心部や小盾板は点刻を欠き、中心部から辺縁部にかけて徐々に点刻が強く刻まれる。従ってただ点刻を欠いた種と比較してより複雑に強く光沢を放ち、非常に華美。一方メスは均一かつ細かく密に深く点刻が刻まれ、さながら「ラメ」のような質感。どちらもただピカピカ光る外産の下品な人気種とは勝負にならない玄妙さ、優美さを持つ。原名亜種や徳之島以南の他亜種対比若干大型化する。

その他:生態、採集、飼育方、全て他の亜種と変わらない。島内のシイ林を中心に生育し、成虫の発生時期は6〜8月頃と思われる。

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6.沖永良部島亜種

和名:オキノエラブアオハナムグリ学名:protaetia exasperata uenoi
体長:19.3〜22.2
分布:沖永良部 

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形態:外観上は徳之島亜種と然程変わらないが点刻が若干弱くなる。個体数を然程確認していない為断言できないが、体色に関しては徳之島亜種よりも赤みが強い緑銅色で、彩度では数歩歩劣る印象。

生態:他亜種対比、シイ林に然程依存せず島内の丘陵地に薄く広く生息し、リュウキュウマツ等からの倒木からも得られた。成虫の発生時期も徳之島亜種と然程変わらないようだ。

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7.沖縄亜種
学名:protaetia exasperata satoi
体長:19.0〜21.4
分布:沖縄本島、伊江島、渡嘉敷島
形態:(本土のキョウトアオ)奄美大島の原名亜種につぎ、オスが被覆物に覆われる亜種。外観は原名亜種に近いが、平均的により小型化すること、体型がより雫型に近づくこと、白紋がより鮮明に現れること、褐色を帯びた個体が多いこと等が特徴として挙げられ、完全な赤化型個体も少なくない。渡嘉敷列島ではかなりの確率で赤化型が得られるようだ。

生態:

8.伊平屋亜種

和名:イヘヤアオハナムグリ学名:protaetia exasperata iheyana
体長:17.9〜20.8
分布:伊平屋島、伊是名島 
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形態:外観を文書で書き表すことが無粋とも取れる程、特徴的な亜種。言うまでもなく最大の特徴は体色で、雌雄共に一般的な「褐色」(赤みのかかった茶色)とも異なり、錆色、鳶色、焦茶色といった、彩度を欠いたいぶし銀な体色を持ち、白紋は殆ど消失する。オスは被覆物に覆われメスは若干紫や緑を帯びる個体も存在する。
また、他亜種対比小型で、より雫に近いずんぐりむっくりとした体型だ。
余談であるが、一般的に同所に近縁種が生息するハナムグリは似た外観の種が生き残る(収斂)傾向にある。例えば前述した亜種が生息する島にはどこもリュウキュウツヤハナムグリ、イシガキシロテンハナムグリ、アオヒメハナムグリ等が生息し、どれも緑色を中心に体型も似通っており、素人目に見れば気付かない程度の差異しかない。宮古島であれば全ての種がピンク色に、与那国島であればどれも紫色を中心とした体色に収斂している。本亜種が生息する伊平屋島にもリュウキュウツヤ、イシガキシロテン、アオヒメ、リュウキュウオオ等の種が生息するが、体色はどれも緑色を基色したものだ。本亜種のみ例外的に収斂が起きていないことは非常に興味深い。
興味深いの一言で終わらせず仮説考察妄想の一つや二つでも述べたらどうだ、といった具合ですが、それはまた別の記事で...

生態:他亜種対比やや発生が遅く、期間も長い。7月中旬ごろから発生し、9月下旬頃まで見られるとのこと。ピークはおそらく8月中下旬

9.久米島亜種

和名:クメジマアオハナムグリ
学名:protaetia exasperata akitai
体長:18.5〜22.4
分布:久米島

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オス


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メス

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メスに見せかけてオス

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メス
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オス

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色彩変異(?)

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形態:他亜種対比やや小柄で白紋も弱い。体色は深緑色をベースに体の中心部にかけて赤褐色が強くなる。完全に赤褐色になる個体も存在しメスであれば伊平屋亜種に近づくほどの個体も存在する。雌雄の差異は少なく、ケイ節外棘や腹部、触角や上翅キールの他に、オスは前胸、腹部の白紋が発達する傾向にある。

生態:他亜種対比発生がやや遅く、7月上旬中旬が個体数のピーク。出鱈目な条例施行により、現在表だっての採集は不可。筆者は条例施行の前年本島に赴いたが、島民や自然保護団体気取りの連中が入れるであろう範疇の環境においては、開発による乾燥を中心に酷い有様であり、排他的な島民の性質やハブの個体密度を鑑みても、他の島に赴く方が楽しい時間を過ごせるように筆者は感じた。

前回のおさらいです

・遺伝性の体内時計が存在、連続的な温度変化や日照時間といった環境条件の変化が影響を与える。体内時計が弱い、あるいは存在しない種も存在

この点を押さえていただき、本論を読み進めてください。

1.活動時期はどう決まるのか

私は、昆虫の活動時期もといハナムグリの活動時期を決める要因において、温度は重要な位置を占めないと考えている。勿論極端な低温では活動できないが、例えば野外において平均最高気温が20度を超える4月でも、多くの種は活動が鈍い。20度ともなれば、飼育下では盛んに活動する気温だ。それでも活動が行われないのはひとえに十分量の餌資源が確保されない時期であるからではと考える。彼らは、これらの資源が安定して供給される時期に羽化をし、活動をする。前記事でも触れた通り、昆虫の羽化は「羽化ができる程十分な成長を遂げている」タイミングで「暦上の適切な羽化時期」が訪れることで行われる。ここで言う暦上の適切な羽化時期とは言うまでもなく資源が安定して供給される時期だ。では、この時期を彼らハナムグリはどのように知覚しているのであろうか。前記事を読んだ方であれば、ハナムグリも例に漏れず適切な羽化時期を体内時計により見定めていることは想像に容易いだろう。本節では飼育下や野外における実際の例を織り交ぜつつ、ハナムグリにおいても特定の活動に体内時計が絡んでいる可能性を再確認する。

1-1 羽化時期と体内時計

まず、幼虫が成長を終えているにも関わらず温度を無理やり上げても羽化しない、アオハナムグリの飼育事例を紹介する。本種は5月ごろ産卵された場合、3ヶ月程度で羽化することができる。一方で、概ね7月以降に産卵された個体は翌年3月頃までみっちり幼虫を続ける。加温により多少羽化を早めることはできるが、仮に2ヶ月程度早めたとて、7ヶ月と3ヶ月とでは大きな差がある。

次に、活動に支障をきたさない一定気温(23度)で飼育しても、低温から休眠してしまう野外個体と、大差ない時期に羽化するキョウトアオハナムグリの例を紹介する。野外においてキョウトアオハナムグリの羽化は概ね8月以降随時行われ、半年程度の休眠期間を要する。野外において冬季は低温により成長が強制的に一旦止まってしまう。対して室内では温度が一定である以上、成長は止まらないはずだ。にも関わらず、飼育下においても羽化時期は晩夏であることが殆どであった。

以上2例からは、温度に関わらず羽化時期が固定されている旨が推測できる。室内、もとい地中においては日照時間の変化等も知覚できない。

このことから、少なからず羽化時期は気温や日照等により決まると言えないことがわかる。室内環境という手前、他に季節を知覚させる外的要因が見当たらない以上、羽化時期に影響を及ぼすものは虫自身、つまり体内時計機能やあるいは未知の内的要因にあるのではないか。

1-2産卵時期と体内時計

では羽化後成虫の活動や産卵はどのような具合だろうか。そもそも体内時計一連の記事と考察は「野外品を産ませたセットで、幾ら加温しても飼育品が産卵しない」という問題から始まっている。例えばムラサキツヤやカバイロハナムグリを始めとした多くのprotaetiaは、16月といったタイミングに後食を開始した場合には程なくして産卵に至る一方で、8月以降に後食を開始した個体は、幾ら温度や湿度を上げようが翌年まで産卵を行わないことが殆どであった。オオシマアオ亜族に至っては、後食すら行わない亜種も少なくない。つまり、外部の刺激とは無関係に、彼らの体内には特定活動の時期を決める要因、つまり体内時計のようなものが存在することが予測できる。

1-3ハナムグリの餌確保は日長次第

体内時計といえども、彼らにとって重要なのは特定の暦に羽化したい、といった数字的なこだわりなどはなく、あくまで適切な環境や餌資源が確保できるか否かが最重要の懸案となっている。ハナムグリは餌資源の発生に連動した体内時計という機能を持っている。では、自然界においてこの餌資源はどのような指標に連動して発生しているのか。

ハナムグリ亜科成虫が利用する餌は大別すると花由来のものと、樹液由来のものに分けることができる。樹液はともかく、前者の「花」は季節にうるさい。開花時期は毎年一定であることが殆どで、花が咲くタイミングを日照時間の変化に左右されている種が多いことは有名だ。要するに、ハナムグリの体内時計も概ね「日照時間」という指標に連動して活動時期を決めることで、確実に餌を確保しているのではないか。

実際に他種の例であるものの、花を餌資源として利用するカツオブシムシやカメムシの類では日照時間が繁殖に大きな影響を及ぼすことが確認されている。彼らには、1日のうち最低n時間太陽が出ていれば繁殖に移る「臨界日長」という指標が存在するようだ。果たしてハナムグリにもこの性質が当てはまるのか、先に挙げた羽化や産卵の例と照らし合わせてみよう。

日長(昼の長さ)は、夏至(6月21日前後)に向かうにつれ長くなり、夏至を過ぎ冬至(12月21日前後)に至る前までの期間で短くなる。冬至を過ぎれば再び日長は長くなり始める。

まず羽化時期について、先に取り上げたアオハナムグリの事例であれば5月に産卵され8月に羽化する個体と、7月に産卵され翌年まで羽化しない個体が存在する。アオハナムグリが活動開始時期は4月中旬以降だが、上グラフを見ると日長は概ね13時間となっている。このことから本種の臨界日長は13時間と見て良いだろう。13時間以上の日長が確保されるのは5.6.7.8.9月となっている。5月に産卵された個体が3ヶ月で羽化しても時期は8月、十分な日照が確保されているが7月に産卵された個体が3ヶ月で羽化しても時期は10月、臨界日長を確保できていない。

次は産卵について、ムラサキツヤハナムグリを例に考える。本種は4月に羽化した場合その年の5月頃には産卵を行う。このことから、成熟期間は1ヶ月程度と見て良いだろう。しかし、9月など晩夏に羽化した個体は翌年まで産卵を行わない。9月に羽化した個体が成熟を終えた頃には既に10月だ。5月の日長は13.5時間、10月の日長は11.5時間と大きな差がある。10月ともなれば本種の臨界日長を割っていてもなんら不思議ではない。一方で、室内において1月や2月といった時期に羽化した個体が産卵に至るケースも少ないながら存在する。これには該当の時期が「これから日長が長くなっていく時期」であることや「人工照明の影響」が考えられる。少なくととも、10月〜12月といった日照が短くなっていく時期に産卵が見られないことは確かだ。

繰り返しにはなるが、以上の例は全て外気温の影響を受けない室内という環境で観察されている。必ずしも明確な線引きがあるわけではないものの、ハナムグリにおいても羽化や繁殖が行われる時期は日照時間と関係があること、それらの時期は体内に刻まれていることが推測できる。


2.環境刺激への反応

前章ではあくまで、暦と体内時計が同期している状態での行動基準を述べた。実際、体内時計が正常に機能している限り多くの種は適切な時期に羽化し、そのまま産卵に至る。仮に本来野外で羽化しない時期に羽化させてしまっても、本来の産卵シーズンまで冷蔵庫等で強制的に活動を抑えればなんら問題はない。遺伝的な体内時計が強い種であれば、飼育下においても体内時計が適切に機能する。しかし現実として、多くの種の体内時計は、日照や連続的な温度変化といった環境刺激に影響を受けてしまう。これは前記事でも繰り返し述べている通りだ。

本来、環境刺激の影響というものは、自身の体内時計を暦に同期させる材料でもある。冷夏や暖冬が存在する通り、季節と気候は毎年一定のものではない。これらの細かい差異へ対応する機能として、環境刺激を受けて体内時計が微調整される。そのため、例年より気温が高かろうが、昆虫の発生が大幅に早まったりすることはない。しかしながら飼育下という環境では、日照時間の変化も温度の連続的な変化も知覚できない場合が殆どであり、これらの調整がうまく機能しない。そのような状況下において、ハナムグリはどのような反応を示すのか。

まず、日照時間の変動を感じ取れないことから生じる狂いを紹介する。アオハナムグリの産卵について、本来野外における活動時期には確保されている十分量の日照が室内では確保されていないことを受け、体内時計に狂いが生じたであろうケースが観察されている。アオハナムグリのような訪花性のハナムグリの累代品は然るべき時期に野外品を産卵させている環境と同条件のセットを組み、自力ハッチを待った個体を使用しても産卵を行わない。アオハナムグリを飼育していた環境は薄暗い室内であった。つまり、アオハナムグリが直面した状況は、体内時計に従って臨界日長に達している筈の時期に羽化したにもかかわらず、周囲は真っ暗だった、という異常事態だ。本来6月といえば夏至、つまり昼が最も長いような時期だ。それを薄暗い部屋で飼育していたら「今は冬か?」と体内時計に狂いが生じたしまうのも致し方ない。本来野外で温度変化や日照時間の変化が起きている中、室内で温度変化や日照時間の変化がない、といった状況は虫の体内時計からすれば「刺激」の一種と言えるのではなかろうか。そして、そのような刺激は体内時計に影響を及ぼしてしまう。

逆に、日光が当たる環境下だからこそ産卵が成功する事例も存在する。現在、一般的にキョウトアオハナムグリはf1以降の産卵が難しいとされているが、筆者環境下でf1f2の採卵に成功している。失敗している方々との差異は、休眠期間を設けていること(適切な時期に組んでるか否か)や活動後、日照を感じ取れる箇所にケースを置いていること等が挙げられる。後者は気休め程度に行っていたものであるが、休眠期間を設けているだけの飼育者が採卵に失敗している旨を見る限り、少なからず日照を知覚させる効果はあると言えそうだ。

日照が体内時計や行動に大きな影響を与える一方で、温度に関しては「高温にした=活動した」といった単純な法則は成り立たない。基本的に(少なくともハナムグリは)急激な温度変化の影響を受けにくい。しかし温度の変化に全く影響を受けないということはなく、「連続的な」温度変化に影響を受ける。

連続的な温度変化が体内時計、及び行動に影響を及ぼす例としてアカマダラハナムグリの採卵を取り上げる。アカマダラハナムグリは冬季、低温に晒すことが産卵のキーと言われている。しかし、こちらも、ただ低温に晒せば産卵するという訳ではない。例えば屋内飼育で11月頃まで通常の室温で飼育していると普通に活動を続けている場合が殆どだ。このような個体を「冬になったから低温に晒そう」と冷蔵庫等に入れても、翌年の産卵は見込めない。一方で、秋口より屋外に放置し、連続的な気温の下降と春先の気温上昇を感知させた個体は、正常に体内時計が作用し、産卵に至る。このように行動に影響を及ぼす=体内時計に影響を及ぼす温度変化は、連続的であることが鍵となっている可能性がある。

次に、幼虫の生育について取り上げる。本土に生息するハナムグリ亜科は、野外において気温の下降を感知すると自ら周囲の土を押し固め、越冬部屋を作成する。部屋に篭った幼虫は糞便を出し切り体を縮めると共に越冬体制に入る。このような状態に入った個体は、基本的に加温しても越冬体制を解除しない。この状態では正常に体内時計が機能しているといえる。正常に体内時計が機能している背景には連続的な温度の下降を感じているという要因がある。一方で、急激な温度上昇は体内時計に影響を与えることができていない。「高温環境で早期羽化した」といった事例は、本来の野外環境であれば気温の下降が感知できるにも関わらず、飼育下という特殊な環境において、一定の気温に晒され続けることにより体内時計に狂いが生じたケースとして説明ができる。

以上のように、室内でも「野外で生育していれば感知する筈の日照時間の変化や連続的な温度変化を感知できない」という刺激が、体内時計ひいては行動に影響を及ぼすことがわかる。


3.体内時計観点からのカテゴライズ

体内時計が独立してしっかり機能する(環境刺激の影響を受けにくい)種に限っては特定の時期にセットを組むといった手法で累代が可能であることに触れたが、現実として産卵の体内時計の相関については三通りのパターンが見られる。

1.体内時計や環境刺激を必要としない種

タイワンシラホシ、シラホシ、ミヤコオオハナ、ハイイロ、ナミカナブン、(アオカナブン?)

2.環境刺激による微調整が必要となる種

(特定の季節に組むと共に環境刺激を与える)

ミヤマオオ(?)クロハナ、コアオ等訪花性ハナムグリ、キョウトアオ、オオシマアオ、アオヒメハナムグリ、アカマダラなど

3.体内時計が存在し、環境刺激を受けにくい種

(ただ特定の季節に組みさえすれば産卵に至る)

ムラサキツヤ、オオシマアオ、イシガキシロテン、リュウキュウツヤ、カバイロ、シロテン、アマミオオ、サキシマアオ、クロカナブン等

ハナムグリに詳しい方であれば、上記カテゴリの共通項が見えて来るのではないか。このカテゴリは、主に生息地域と食性により大別することができる。体内時計の概説記事でも触れた通り、基本的に緯度が低い(赤道に近い、緯度が低い)ほど季節の変化が少なく、従って活動時期の制約も薄くなると考えられる。そのため、体内時計を持つ必要や、環境刺激に同調して行動する必要性が薄い。

食性の観点では、花をメインに利用する種と比べると、やはり植物の生組織を齧ったり、樹液を利用する種の方が季節に縛られない傾向にある。例えば果実や樹液を利用する種は特定の時期に羽化せずとも問題なく繁殖に至ることができる。要するに季節にこだわりがない。それ故暦状冬季であろうと、体内時計がある程度活動時期と合致していれば、日照などを知覚してまで、厳しく暦上の季節と体内時計をマッチさせる必要がないのではないか。逆に訪花性の種は花等の特定季節にしか利用できない資源に依存している。活動時期を間違えてしまうことが死に繋がるため、日照等により厳格に体内時計、即ち活動時期を管理するに至ったと考えられる。つまり訪花性のハナムグリは適切な羽化時期に加え、その羽化時期を知覚させる為の環境刺激、日照等が重要となると考えられる。

以下に各カテゴリの特徴を述べる。

まず体内時計や環境の影響が少ない種は、南方種、つまり与那国島やポリネシア由来であったり、花に依存しない、野外でも長期間活動しているといった種が多い。このような種は活動に適した気温であれば素直に羽化、繁殖に至る。

外的環境に左右されやすい種は、極端な高山に生息しており季節の制限を受けやすいミヤマオオのような種や、花に依存しがちな種が当てはまる。キョウトアオやオオシマアオに関しては花に依存する傾向は少ないものの、同亜属の南方亜種と比べるとやはり季節の制約を受けやすいものと思われる。

生来の体内時計のみで繁殖が成立する種はどちらにも当てはまらない種が殆どだ。オオハナムグリや大型rhomborinaに関しては活動に十分なの餌資源の量が確保される一定時期に活動時期を合わせている印象を受ける。一方、所謂普通種protaetia、餌資源や活動時期が広い種に関しては、体内時計はあるものの影響は小さく、外的環境により活動を制限されることも少ないように感じる。累代難易度が低い事も体内時計のような要因を加味する必要がない、つまり従来の飼育方法で完結するからではないだろうか。

実践的な飼育テクニックの解説に移る前に、室内飼育で羽化させたF0が産卵に至るにも関わらず、F1の繁殖においては環境刺激が必須となる理由を考える。以前、筆者の環境下では、オオシマアオハナムグリの飼育において「野外品が産む、f0が産むにも関わらずf1が産まない」といった事態が発生していた。今更説明するまでもないだろうが、F0という累代表記は幼虫採集品を指す。つまり、幼虫を持ち帰り室内という環境刺激を遮断される環境で羽化させた個体のことだ。対してF1の個体は産卵時から一貫して環境刺激を受けていない。羽化後に外的刺激を感知していないF0が産卵するのであれば、f1の内時計調整に日照が必要だ、という式が成り立たない。この矛盾を埋めるパーツとして、羽化時期さえ適切であれば(幼虫期間に適切な外気温を経験していたことで体内時計が適切に暦と同期していれば)成虫になってからも自律的に活動ができる=幼虫期間に適切な外気温を経験させられなかった場合、羽化後に日照や温度を調整して暦と同期させる必要があるといった仮説を考えた。無論本来野外では幼虫期間に摂ることのできていた栄養素が、飼育下において欠乏している可能性は否定できないが、我が家においては上記のように日照等を用いて問題なく産卵させることができている以上、この仮説はあながち間違っていないと言えるのではないか。


4.実践的な飼育方法

長ったらしい前置きや考察は以上で終わらせ実践的な飼育方法の解説に移ります。

1.従来の飼育では加味されていない「体内時計」という概念を飼育に取り入れる

2.体内時計は遺伝性のものを軸に温度変化や日照時間といった外的環境の刺激を受け、暦と同期される

3.ハナムグリは生息地や活動時期、食性により以下の3グループに大別され、各々注意すべき点が異なる。

・体内時計や環境刺激の影響を受けない=活動時期の制約を受けにくい種

・体内時計に加えて環境刺激による調整が必要になる種

・極力体内時計を意識すべき種

体内時計の影響が薄いに特段の対策は必要ないが、体内時計に加えて外的刺激による調整が必要になる種、極力体内時計を意識すべき種においては、飼育温度を幼虫の段階から外気温になるべく近づけることで、適切な時期に羽化させることを心がける。温度の緩急をつけて幼虫の体内時計を機能させれば成虫は適した時期に羽化してくる。羽化時期を誤ってしまった場合、室温での飼育等による早期羽化を誘発してしまった場合は冷蔵庫等の低温環境にて強制的に活動開始を抑えるといった処置が求められます。活動時期が近づけば、環境下刺激を必要とする種であれば徐々に外気温に慣らす、日照が当たるような場所に置くなどして、季節を近くできるような処置を取る。

5.外的刺激の与え方

つまるところ、上述した内容を要約すると「屋外で飼育をしましょう」ということになる。しかし、我々の多くは室内での飼育を基本としており、屋外での飼育はあまり現実的でないことも多い。また、低温で寝かせるとは即ち無理やり活動を抑制しているだけに過ぎない。寿命が短い種は半年以上の休眠ができない可能性もある。例えばの話野外であれば7月に産卵された個体が幼虫期間8ヶ月、休眠期間2ヶ月で5月から活動している場合、飼育下の高温で幼虫期間が5ヶ月に短縮、休眠期間が5ヶ月になってしまう。成虫寿命が5ヶ月以下であれば死んでしまう上、コンディションになんらかの悪影響を及ぼす可能性もある。このような事情から、悠長に「野外での活動時期に従いましょう」とは言っていられない。この問題を解決するためには環境刺激を用いて体内時計を操作する必要がある。

外的刺激は主に2種類、断続的な温度変化と日照時間の調整がある。前者においてはクワガタ飼育等でも当たり前の技術として普及しているので殊更の説明は省くが、後者の日照については具体的な説明を行わなければならないだろう。日照を必要とする理由は、日光を浴びた人間の体内で、ビタミンDが精製されるといったように、光から得られる成分を必要としているからではない。あくまで季節を知覚させることが目的であり、必要であるものは日が照っている時間の変化、つまり日長の変化だ。この日長の変化を、調整することが目的となる。

ちなみに光の種類に関して、ショウジョウバエやゴキブリ等の実験昆虫は無論、カツオブシムシなどハナムグリと比較的近い食性を持つ昆虫を用いた実験等では、室内灯でも十分影響を与えることが知られている。しかし、私自身がアオヒメハナムグリを被験体に室内灯を用いた複数通りの産卵セットを用意した結果として、特に違いを観察することはできなかった。日照の強さ等も関わって来るのかもしれない。無難を求めるのであれば、窓際など日光により明るさが伝わる場所に置けば良い。

日照時間の調整について具体的な手法は以下の通りだ。多くの種が、日照時間が長くなりつつある時期に活動を始める。これらの性質を利用し、例えば、夜12時間、昼12時間といった環境から、夜10時間昼14時間といった環境に、徐々に移し替える。例えば窓際に飼育ケースを置きカーテンを開け閉めする時間を調整したり、室内灯を用いる場合にも、電灯をつけておく時間を調整するだけで良い。また、昆虫は夜明けの早さよりも日没の遅さを重視しているため、例えば冬季に夏季を錯覚させるような場合には日没後も室内灯により擬似的に昼間を再現することが求められる。

繰り返し述べるが、最も理想的な飼育は暦の季節と本来の活動時期が重なっている場合に行う屋外飼育だ。屋外飼育ができない以上外的刺激を用いて極力野外環境に近づける必要がある。


総論

累代飼育の本質とは、あくまで全ての条件を野外環境に近づけることだと私は考える。採集を行っていると、従来の飼育で考慮されている側面がほんのごく一部であることがわかる。餌や温度等が加味されているのであれば「時間」や「日照」といった事象も加味すべきだ。


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