国ブン手稿

主にアマチュア採集家が国産ハナムグリ×クワガタの生態に迫るブログです


0.飼育屋の狭すぎる視点

ハナムグリの繁殖を手がけている人間は大抵の場合クワガタの繁殖を経験しているであろう。そして、一般的にクワガタの繁殖のスタートラインである「産卵」を行わせる条件として知られているものは、活動に至る外的温度、産卵に必要なエネルギー源、産卵を行うロケーション(産卵床)、そして個体の成熟と言ったものが挙げられる。一般的なハナムグリ飼育においてもこれらの条件は加味されている。むしろ、これらの条件しか検討されていないのが現状であり、試行錯誤といえども精々飼料や産卵床に何か混ぜ込んだりといった程度で、ハナムグリにおいてこれらの条件を整えることは非常に簡単だ。ハナムグリは産卵床の嗜好も幼虫の食性も非常に幅広いし、適温の幅も広い。体自体の成熟も(こちらはあまり加味されていないように思えるが)短期間で済む。そのため一般的に「ハナムグリの産卵、繁殖は簡単である」との印象が大きい。しかし、これは野外品や一部の強靭なProtaetiaのような種に限った話であって、現状われわれハナムグリブリーダーが直面している問題は一部種における累代品の産卵にある。一方でクワガタにおいても野外品の産卵が容易であるにも関わらず、累代を維持することが難しいとされる種類は少なくない。これには、例えばシカクワガタの仲間などが挙げられる。これらの累代難関種失敗の言い訳に、世のブリーダーたちはしばしば「累代障害」「オスが種無しだった」「メスが悪かった」という、問題を挙げ、自らの飼育技術を省みようとしない傾向にある。失敗の要因を対処できない問題に押しつけ、諦めてしまうことは楽だが、このような姿勢で進歩は望めない。本記事では上記のようなブラックボックス的失敗の背景に存在すると思われる「体内時計」について触れる。とは言ったものの、一部の腕利きブリーダーは既に加味している条件なのではないか。勿論国産ハナムグリに限り、累代飼育を完遂させるためには既存の飼育で加味されている条件の他に体内時計を加味する必要があるし、そして一部の種では加えて「日照」といった条件を加味することが予測できる。体内時計と日照、双方の条件は密接に絡み合っており、可能であれば本記事にて一度に触れてしまいたいのだが、些か長くなりすぎるため本記事では前者の体内時計の仕組みの概説に留まってしまう。次回の記事にて、日照との関連性、そして両者の側面から考えるハナムグリの飼育の実用的な手法を紹介するものとする。


1.休眠期間成熟期間

本記事の目標は、温度や産卵床、生体のコンディションが良好な筈なのに、産卵に至らないといった状態の原因を明らかにすることだ。往々にして、このような状態は野外個体には起こらない。ほとんどが飼育個体(累代個体)に起こる現象だ。野外品の産卵が容易であるのにもかかわらず、飼育品の産卵が難しいとされている種の飼育に、特異な条件とは何であろうか。このような状態の顕著な例としてクワガタ屋にも分かり易いシカクワガタを取り上げたいと思う。私自身、シカクワガタの累代飼育を行った経験が少ないため不確実な情報を含んでしまう恐れもあるが、彼らを産卵させるに重要な条件は「羽化後にしっかり寝かせ、特定の時期に産卵セットを組むこと」だと考えている。繰り返しにはなるが、私自身の経験が少ないこと、物事には例外が存在すること(例外の説明事項も後述)を前提に読み進めていただきたい。

上記のような書き方をすると「要するに成熟期間でしょ?」といった誤解をされかねないが、以降説明する通り、成熟期間の定義についても見直す必要があると私は考えている。おそらく世間一般では、休眠期間=成熟期間といったような捉え方が主流だろう。体の成熟とは内臓や生殖器官が出来上がることを指し、成熟が済んだ状態の虫は自ら活発に動き回り、採食を行う。裏を返せば、温度などの活動条件が満たされている上で、それでも自ら活発に動こうとしない個体は「成熟が済んでおらず、体が完成されていない」といった状態に捉えられても仕方がない。本記事で私が言及する「休眠期間」には2つの段階がある。「体の成熟を成す為の期間」と「野外における適切な活動時期までの期間」だ。繁殖において成熟の為の期間が必要であることは言うまでもない。が、適切な活動時期という要素は見落とされがちだ。中には後者の段階など存在し得ないと言う飼育者も存在する。しかし、休眠期間=成熟期間と捉えてしまうと、二つの疑問が湧き上がる。まず羽化してから成熟までの期間が長期に渡る、生存戦略上のメリットがあるのか、という点だ。そもそも自然界において、身動きも取れず、体が完成されていない無防備な状態を長期間続けるメリットは殆どない。そのような状態で体を完成させるのであれば、比較的身動きの取れる幼虫期間に体組織を作ってしまえば良い。加えて、同種間で体組織が完成に至るまでの期間が異なるのかという点にも疑問が残る。野外であれば気温差からくる体細胞分裂速度の違い等により説明ができるものの、飼育環境のように、気温が一定である飼育環境においてすら、活動までの期間が羽化時期により異なるケースは少なくない。同条件において個体間の細胞分裂速度が全く同じであるとはいえないが、数ヶ月単位での差異が産まれるとは考え難い。このことから、「休眠期間」のうちには「体を作る成熟期間」と「体を作り終わった上でそれでも寝ている期間」が含まれていることが予想できる。

具体的に野外品の産卵難易度と累代品の産卵難易度がかけ離れている種といえばオーベルチュールクロツヤニセシカ(以下オーベル)が有名だろう。筆者は本種のwf3以降の個体が販売されている様子を見たことがない。かく言う私もブリードに挑戦したことがある。勿論累代はロクに続かなかったが、幸いにも産卵に関しては複数回経験することができた。時系列が前後するが、まず20201月に羽化したwf1の個体を購入し、同年6月に30個ほどの有精卵を採卵した経験を取り上げる。この結果を見れば、本種は6ヶ月ほどの休眠期間で十分に産卵が可能であることがわかる。また、20187月頃に野外品を購入し、20個程の卵を得たこともある。これらの子孫は、翌年20199月に羽化し、そのうちほとんどの個体が翌年7月頃まで10ヶ月もの間休眠を継続しその後野外品と同程度個数の有精卵を産卵するに至った。要するに、9月に羽化した個体は産卵に至る為、本来必要とする6ヶ月程度の成熟期間とは別に、4ヶ月程度の休眠期間を要していたことが窺える。一方で、僅かではあるが2月に活動を開始した個体も存在し、これらの個体は産卵に至ることなく死亡した。ちなみに、これら一連の飼育に関して温度は常に23度をキープしている。

次に、スペキオススシカ(以下スペキシカ)について取り上げる。こちらも、1月に羽化した個体を購入、セットした際は、その年の7月に有精卵を採卵した。しかし、これらの子孫が翌年8月に羽化した際、23度一定の環境で管理していたところ、1月頃には動き出し、産卵に至ることなく死亡してしまった。また、スペキシカのブリードに熟達していらっしゃる方よりお話を伺った際、以下のような情報が得られた

・飼育環境は22度一定

24月羽化個体は数頭89月に動き少し餌を食べるものの、殆どが4月まで寝る

911月羽化個体は4月くらいに動く個体と7月位まで寝る個体の2パターンに別れ、これらの個体は産卵する

私自身の飼育経験、並びに911月羽化の個体が4月に産卵を行っているという証言から、本種は体成熟を6ヶ月前後の期間で完了させることができることが伺える。にも関わらず、24月に羽化して8月に活動する個体や8月に羽化して1月に活動する個体が産卵に至らない、という点は些か不思議だ。 

つまり、上記のデータのみを観察している以上両種にはある程度決まった期間に産卵を行いやすい性質があると予測できる。オーベルシカであれば、69月前後、スペキシカであれば49月前後といったところだろうか。勿論、1月にスペキシカを採卵しているという事例は少なからず散見されるため、必ずしもこの法則が当てはまる訳ではないが、これらの例外に関しても後程説明を行う。

本種の生息する現地の気候を考えれば産卵の季節がある程度決まっていることも頷ける。オーベルシカの生息するハザンでは、平均気温グラフ、並びに降水量グラフが概ね山型を描いており、特に飼育下で繁殖に至り易い6.7.8月は顕著な雨季となっている。タイのチェンマイ周辺では、日本やハザンほど顕著な四季は存在しないものの、平均気温のピークは5月となっており、4月下旬〜10月にかけて雨季の様相を呈している。つまり、両種とも概ね雨季に合わせて繁殖、活動をしていることがわかる。注目すべきは、乾季雨季の差異や気温の顕著な変化が存在しない室内という環境においてすら、繁殖の時期が制限されているという点だ。このことから推測するに、彼らの体内には環境に左右されない、されにくい体内時計が存在することが伺える。以上をまとめると、シカクワガタは「体の成熟を待つための期間」と「体内時計に従い特定の季節を待つための期間」を、休眠期間として設けていると言えそうだ。


2.体内時計の存在

上述したシカクワガタのように、温度等の外的条件が整っているにもかかわらず、特定の季節にのみ産卵のような特定の行動をとる昆虫は少なくない。シカクワガタの他にも、適切な気温を保っている飼育環境下において飼育対象が体の成熟を完了させ餌を盛んに食べているにもかかわらず、産卵に至らないといった事例は読者諸兄も経験したことがあるのではないか。ハナムグリにおいても同様のことが言え、例えばムラサキツヤハナムグリの場合、初夏に羽化した個体は1ヶ月もすれば成熟を完了させ産卵に至るにも関わらず、秋に羽化した個体はいくら加温しても翌年まで産卵に至ることはない。体成熟自体は1ヶ月程度で済むにも関わらず、産卵までの期間が半年以上にも渡るのだ。このように、昆虫の繁殖や活動を特定の時期に制限する環境要因以外の、いわば昆虫自身に起因する要因を、本稿では「体内時計」と呼称する。

このような体内時計の存在意義に関しては後ほど詳しく触れるが、例えば活動しやすい気候、餌資源が豊富、天敵が少ないといった時期に活動時期を合わせるように進化してきた結果の産物といえる。先に述べたシカクワガタの産卵時期が現地の「雨季」前後に纏まっていることもわかりやすい例だろう。

ハナムグリにおいても、体内時計が備わっている種の繁殖にはシカクワガタと同じく「体の成熟」の他に「野外での活動時期に産卵セットを組む」ことが重要と言え、筆者の飼育下ではカレンダー上の暦と体内時計を同期させることを重視することで累代を成功するせるに至った種も少なくない。早い話が、野外における本来の産卵時期まで待てば良いのだが、寿命の短い種類であればそうもいかない。このような種に対しては「体内時計を狂わせる」といった手法が有効打となりうるが、これらの手法を理解するためには体内時計に関する理解が不可欠だ。加えてここまで読み進めた中で「我が家では冬でもシカクワ産卵させてるんだが?笑」「俺はあの有名な〇〇さんと知り合いで、その〇〇さんが冬に〜を産ませたと言っていた!」などといった反論材料をぶち撒けるタイミングを、今か今かと待ち侘びてる読者も少なくないと思われるため、やはりこの体内時計の仕組みについて詳しく解説する必要がある。次章では昆虫の体内時計に関する詳しい解説だ。


3.体内時計の構成要素

昆虫体内時計研究に関しては未だ判明していない点が多く、本記事も推測的要素を多分に含むことを予めお断りしておかねばならない。また本記事における概日概年リズムと遺伝性体内時計の特性、外的刺激と体内時計の関係性、臨界日長の概念などは、「『昆虫の時計』、沼田英治著、北隆館、2014」を参考に、筆者の野外や飼育下における観察情報を交え解説を行なっている。

昆虫は体内に遺伝として刻まれている体内時計を基軸に、連続的な温度変化や日照時間といった環境刺激を加味し、季節的な、あるいは時間的な行動を制限している。つまり、生来的な体内時計に基づき休眠を行なっているシカクワガタでも、連続的な温度の緩急をつけ、加温を続けるなどの環境刺激を与えれば動き出すケースが存在するというワケだ。加えて、生来的に体内時計の影響が希薄な種や個体も存在する。そのような個体は環境刺激に対する感受性が高くむしろ環境刺激に依存して行動を制限している。裏を返せば環境刺激を用いて体内時計を調整することも可能であるといえる。勿論、全ての個体が環境刺激の影響をモロに受ける訳でもないし、かといって体内時計に全く左右される訳でもない。極端な白黒思考は避けるべきだ。

また、体内時計には概日リズム概年リズムが存在する前者は夜行性昼行性といった生活サイクルや、変態の時間などを左右し、後者は繁殖や越冬の時期を決めており、特に本記事では概念リズムの理解が重要となる。概年リズムが機能している例としてリュウキュウコクワガタの生態を挙げてみよう。本種の生息地である沖縄本島は年間を通じて昆虫類が活動するに十分な気温を保っており、平均気温が最も低くなる12月ですら16度前後を保っている。本種も例に漏れず飼育下においては16度程度の気温があれば、容易に摂食や活動を行う。しかしながら、本種は冬季には活動しない。ちょっと待て、幼虫期間が一定であるために毎年夏場に成虫が羽化しているだけではないか、という反論も予測できるが、リュウキュウコクワガタが成虫状態で数年生存可能である旨を考慮すると辻褄が合わない。つまり、彼らは気温等の環境条件が整っていようとも季節が冬であることを体内時計により知覚し、越冬を行っている。

実際に、冬季に発生木を割り採集した個体を室内で加温しても、活動に至ることはなかった。

そして、先程も述べたように、体内時計は適した時期に虫自身が適した行動を取る指標として機能している。世界規模でクワガタの繁殖を例に考えてみよう。例えば赤道付近は概ね四季が存在せず、年中活動が可能だ。そのため付近に生息する昆虫は繁殖や越冬の時期を定める必要がない。したがって遺伝性体内時計も存在しない、もしくは影響が薄いのではないだろうか。例えばインドネシアのクワガタなどは、どの時期にセットされても産卵することが多い。逆に、季節により気温や乾湿が変わる国、例えば日本などの緯度の高い地に生息する種は、殆どの場合繁殖や越冬の時期が特定の季節に限定されている。勿論日本の冬は恒温動物である人間ですら活動を躊躇う程に寒い。ましてや昆虫が強制的に活動を制限され、越冬状態に入ってしまうのも頷けるが、同じ現象は暖かい室内においても発生する。例えばコクワガタなどは春〜初夏に羽化すればその夏には活動、産卵を行う。したがって、体の成熟は2.3ヶ月で済むはずだ。しかしながら秋冬に羽化した個体は適温下で数ヶ月放置しようとも、産卵に至るケースは少ない。むしろ餌の消費もほとんどなく、いわゆる越冬体制に入ってしまう。これは遺伝性体内時計が機能しているからだ。

これらの遺伝性体内時計には「温度補償性」という特性があり、急激な温度変化に対しては反応しないという特徴を持つ。仮に彼等が遺伝性体内時計を持たず、越冬の時期が一時的な温度変化のような環境刺激にのみ左右されるものとする。温度というものは非常に安定しない指標だ。天気が曇り続きであれば温度は下がるし、反対に季節外れに暖かくなる日も存在する。越冬中、暖かい日が続いたとする。そのような折に反応し、活動を始めてしまった場合、再び温度が下がればたちまち死んでしまうだろう。一方で、遺伝性体内時計が機能してさえいれば、上記のように特例的な環境刺激に左右され生存が脅かされてしまうこともない。あくまで、体内時計を基軸に環境変化を知覚し、活動を制限していると言えそうだ。そのため、連続的ではない一時的な加温等では、幾ら温度を上げようとも、活動に至らないことが多い。反対に、連続的な加温を続ければ産卵に至ることがある。これは先にも述べた通り、遺伝性の体内時計の作用が希薄だった、あるいは環境刺激に影響を受けた事例として説明ができる。

結局は温度管理じゃないか!と言った声も聞こえてきそうだが、活動に最適な適温が保たれているから産卵を行うのではなく、気温という外的条件から活動に適した季節である旨を知覚することが産卵の成功に繋がることはご理解いただけるだろうか。

逆に、温度変化のみでは季節の変化を知覚させにくく(不可能ではない)産卵促進効果が低い種がいる。これらの種が昼行性の昆虫、つまりハナムグリだ。結論から言えば、ハナムグリの繁殖には日照時間が大きな影響を及ぼしているようだ。対照的にクワガタは夜行性であり、日中は土中等で休んでいる他、地中の幼虫等は多少の明暗差は知覚できても、昼行性の昆虫と同程度に日照時間のような温度以外の指標を知覚することはできない。そのため比較的温度の影響を直に受けやすくなっていると考えれば辻褄が合う。事実、オーベルシカのように安易に加温しても産まない種は昼行性を匂わせるような情報が散見されており、日照時間により繁殖の時期を制限している可能性も十二分にありうる。

他種においても、ただ加温を続けても活動を開始しないことが多いものの、徐々に温度を変化させることで活動に至るケースは存在する。一時的ではなく、あくまで連続的な温度調整を用いることで幼虫期間の調整、および大型化といった飼育方法が成立するのではないだろうか。

以上が体内時計の基本的な仕組みだ。整理も兼ねてこれまでの内容を以下のような形で纏めることとする。


・昆虫の繁殖や越冬、変態の時期は、体内時計における概年リズムにより決まっている

・体内時計は遺伝性のものを基軸に環境刺激に影響を受ける

・遺伝性体内時計の影響が希薄、あるいは環境刺激の影響を非常に受けやすい種や個体が存在する

・体内時計は連続的な温度変化や、日照時間の影響を受ける。


4.体内時計を無視した際に起こる弊害

本ブログの主題であるハナムグリ飼育に関する記述は一旦締め、本記事では特別にクワガタ飼育を視座に置き、論を進めようと思う。

唐突だが、クワガタ飼育における繁殖の成功とはどの程度のものを指すのだろうか。一般的には累代を保持できる程度に採卵できれば成功と言えるだろうか。クワガタ自身が本来産卵するはずのない季節に無理矢理加温して、1桁でも採卵できれば成功だ。

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成功ではあるが、例え産卵に至ろうとも、適切な形で累代が回っていないことは明白だ。時には産卵数が確保できない、無精卵や空砲が連発してしまうかもしれない。

このような事態をブリーダー達はやれ「累代障害だ」「メスが悪い雄が悪い」と、虫の責任にしてきた。体内時計という条件は、この無責任な風潮を壊しうる可能性を秘めている。累代障害という角度から切り込んでみよう。

インブリードに弱い種の定義として活動範囲が広く、染色体交換が活発に行われるといったものが挙げられる。たしかにインブリードにより虚弱形質が発現してしまうことは世に広く認知されている科学的事実だ。しかし、メタリフェルのようによく飛翔する、活動範囲が広い種でさえ、累代は2桁以上続いているのだ。このことを加味すると、本来累代障害とは少なくともf3.4程度で頻発する問題ではないように感じる。

概して累代障害を叫ばれる種、例えばニセシカや大陸フタマタのような種は、緯度が高い地域に住んでいる。つまり、体内時計の影響ぎ強く作用している可能性が高い。逆に累代障害に強いメタリフェルはどの亜種も四季の変化が少ない赤道付近に生息しており、繁殖のシーズンを選ぶ必要がない。つまり体内時計の調整が不必要だ。体内時計という要因を加味せずとも容易に累代が続いてきたのだろう。また、マンディブラリスやツツイシカのように赤道付近に住む種は冬でも多産するし、生息域が赤道に近いフォルスターキヨタミの産卵は簡単とされている一方で、より緯度の高い地域に住むニシは産卵数が少ないとされている。これら全て、体内時計の存在によりパーツが埋まるのではないだろうか。

冒頭にも述べたが、クワガタ飼育においても体内時計を加味する飼育は未だ一般的とは言い難い。特に温度を上げ下げすれば昆虫の活動は制限できる、といった信仰が蔓延している。勿論制限はできるのだが、それが虫自身に良い影響を及ぼしているかはまた別の話だ。

野外で6月に繁殖を行い、1年半の幼虫期間を経て12月ごろ羽化し、6ヶ月程度の休眠期間を経て繁殖に至る種がいるとする。このような種を高温で飼育すれば、おそらく幼虫期間は1年前後になるだろう。そうなれば、羽化時期は6月ごろ、休眠期間は1年に及ぶ。本来6ヶ月の休眠期間で卵巣を成熟させる種が1年間も卵巣を成熟させたらどうなるだろつか。ともすれば成熟されすぎて腐ってしまうのではないか。

他にも温度を無理矢理下げて休眠をさせるやり方などは虫自身に好ましいと言い難い。国産ノコギリクワガタは冬季に25度前後まで加温しても越冬体制を解くことはない。つまり温度が活動に適していても体内時計により越冬体制を保持しているのだ。一方、低温で休眠させていたクワガタを常温下に置いていたら起きてしまった、といった事例が存在する。温度補償性を加味しつつこの状況を分析すると、クワガタ自身の体内時計は活動を促していたのに、低温で無理やり活動を鈍らせていたに過ぎない。果たしてこのように不自然な飼育方法が虫自身に良い影響をもたらすだろうか。

現状、クワガタ飼育においては殆どが既存のやり方で成り立っているため、新しい視点を検討する必要がない。私は偶然ハナムグリ飼育という未知の領域に手を出したため、クワガタ飼育にこのような視点を持ち帰ることができた。今は外国産クワガタ飼育にリソースを割く余裕と熱意が欠けているが、ゆくゆくはこれらの知見を用いてクワガタ飼育でも結果を収めたいと考えている。そして、読者の皆様方もさらなる技術の向上を求めるのであれば既存のやり方を疑ってみるのも一つの手ではないだろうか。


本稿では奄美亜種以外の各亜種を紹介します。
リュウキュウツヤ各亜種は、亜種とは思えない程それぞれの特徴が際立っています

1.中之島亜種

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(画像個体は全て累代品を譲り受けたもの)

和名:トカラツヤハナムグリ
学名:protaetia pryeri tsutsuii Nakane1956
体長:18.7〜23.4
分布:口之島、中之島、平島

形態:全亜種中最も平均サイズが小さく、白紋が発達する。体型は原名亜種に近い雫型で、他亜種と比べて横幅が広い。色調はシラホシハナムグリと似通っているが、本種は点刻が細かく浅いため、全体的に非常に光沢が強くうつる。鏡面仕立ての下地にさざなみのような白紋が広がっており、これらの情報量が小柄な体躯に詰め込まれているかなりの美麗種だ。色彩変異らしい色彩変異はなく、個体差の範疇で緑みがかかる。稀に全身が緑銅色に変化する個体が観察されるらしい。

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雌雄判別方法は原種に同じでメスは前脚ケイ節に明瞭な外棘歯を3本備える。オスはこれが不明瞭。また、白紋の発達はメスの方が顕著になるらしい。

生態:やや平地に生息する傾向があり、標高を上げると同所的に生息するオオシマアオハナムグリばかりが得られる。奄美、原名亜種と比較して個体数は格段に少ない。成虫の活動時期も6月下旬〜7月上旬を中心にかなり限られている。時期さえ外さなければバナナトラップやタブ樹液等での観察自体は難しくない。幼虫の生態は不明だが、おそらく他種と違いはなさそうだ。ただ、生息域には木質の分解を専門とするハナムグリが生息しないため、そういった資源を優先的に利用している可能性もある活動時期が1.2か月程度と纏まっているため、発生サイクルも単純な1年1化と思われる。

3.悪石島亜種

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(画像個体は全て累代品)
和名:アクセキツヤハナムグリ
学名:protaetia pryeri akusekiana Nomura1964
体長:21.0〜22.5mm
分布:悪石島

形態:やや大型になり、鈍い金属光沢を持つ。
前胸、上翅上部の点刻はまばら、上翅下部中央の点刻は密になる。体躯はやや細長く、白紋が消失するなどやや奄美亜種に似る。
最大の特徴はなんと言ってもその体色だ。原名の鮮やかな緑とも異なり、奄美亜種の黒化型とも異なる、暗緑銅色〜黒銅色に、若干青いホログラムが乗る。

色彩変異個体

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ちなみに腹面はくすんだオリーブ色。

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「渋い」を地で行く、魅力的な種だ。

生態:中之島亜種と同じくやや平地に生息し、バナナトラップや各種樹液等で得られる。そもそも生息地の悪石島自体が切り立った崖の上にあり、標高を上げると竹林ばかりになるため生息地が限られている。加えて本島にのみ生息しており絶滅が危ぶまれる。個体数も多くない。
飼育下ですら1年程度の幼虫期間と半年程度の休眠期間を要する個体がいるため、奄美亜種などと同じく単純な1年1化を送る個体群と、8月以降に羽化し翌年まで休眠する個体群に分かれるものと思われる。

4.宝島亜種(画像は不確定)

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和名:エサキツヤハナムグリ
学名:protaetia pryeri esakii Nakane1956
体長:19.2〜25.8mm
分布:佐多岬、枇榔島、馬毛島、硫黄島、竹島   宝島、横当島、臥蛇島?鹿児島県南部?

形態:全体的にやや小型。分布が特殊で、トカラ列島を挟んで宝島と小宝島に生息する系統と九州南部離島や鹿児島県内に生息する系統に別れる。前者の外観は概ね小型の奄美亜種といった様相で黄緑銅色〜赤銅色の変異が見られる。一方九州南部の個体群は原名亜種のように体躯はやや幅広になり、体色も濃緑銅色になる。

鹿児島市内にはリュウキュウツヤハナムグリが移入している。それらが本亜種であるのか、奄美亜種であるのかは不明。両者の判別方法はオスの交尾器により行う。上載画像の個体は鹿児島市内産だ。交尾器は奄美亜種のものと比べ幅広になっており、本亜種のものである可能性がある。しかしながら交尾器自体にも個体差があるため確実な断定はできない。

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また上翅全体に赤みがかかっており、こちらも宝島亜種の、特に宝島由来であることを匂わせる特徴だ。(奄美亜種は基本的に上翅の側面が赤くなる傾向にある) 鹿児島市は佐多岬とは地続きになっている他、トカラ列島奄美大島九州南部離島、全てのフェリーターミナルが存在するため、どの亜種が移入してもおかしくない。こればかりは多くの個体を観察する以外に判断する方法はない。

生態:宝島や他離島における個体数は少なくないらしいが、佐多岬における個体数は多くないとの情報もある。夏場は上空を飛び回っているらしいが、生息地周辺はトラップの設置ができない。特保、並びに一種保護区外においても幼虫の採集は可能だ。下載画像は本種の亡骸と本種と思わしき幼虫。

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余談だが、トカラ列島では諏訪瀬島にのみリュウキュウツヤハナムグリが生息していない。

5.宮古亜種

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和名:ミヤコツヤハナムグリ
学名:protaetia pryeri nitidicosta Yawata1941
体長:19.4〜25.6mm
分布:宮古島、多良間島、伊良部島、水納島

形態:本亜種は上翅の幅が狭くなるが、前胸部も細くなっているため、雫のようなシルエットであることに変わりはない。赤銅色、稀に緑銅色の下地にトカラ亜種並みの白紋を備える非常に美しい亜種。同所的に生息するイシガキシロテンやミヤコオオと非常に似通った色形をしており、収斂の様子がまた取れる。
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手前からツヤハナ、オオハナ、ガキテン
多良間島、未納島の個体群は緑銅色の出現率が高く、小型化する傾向にあり、こちらも体色等同所に生息するイシガキシロテンと類似した形態となっている。

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多良間島産
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生態:同所的に生息するイシガキシロテンが林縁や草原、農道脇の植え込み等に生息する反面本種の幼虫は林内の土壌をメインに薄く広く生息する。成虫の活動時期は5〜7月に限定されており、必要に応じ休眠期間を調整しているものと思われる。

多良間島にて幼虫。右側が本種。
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1.基本情報

和名:ミヤコオオハナムグリ
学名:protaetia(liocora)miyakoensis 
          Niijima Kinoshita 1923
分類:シロテン属シラホシ亜属
体長:20.5〜27.3mm
生息:宮古島、伊良部島 沖縄本島(移入?)

2.形態

シラホシ亜属の中で最も大型になる種で、体色はくすんだ緑銅色。画像で見ると何処にでもいる地味でありきたりなハナムグリに見えるが、宮古諸島の固有種(亜種ではない)だけあって実際に肉眼で見るとかなり異質な種。
稀に赤銅色や黒銅色の変異を呈する。
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色彩変異個体
上翅や腹部には白紋が入り、特に上翅の白紋は細かくまばらで帯状になることはあまりない。
胸部辺縁部は申し訳程度に白く縁取られる。
オスの方が光沢や上翅キールが発達するといった特徴は、他シラホシ亜属と共通している。
点刻は体全体の側面や上翅中央部に密である一方で、前胸背板中央部の点刻は極めて浅く艶やかに見える。後脚の段刻は2つで、頭部辺縁は極めて浅く湾入し、翅端部は突出する。同所的に生息するイシガキシロテンハナムグリは頭部辺縁が深く湾入し、リュウキュウツヤハナムグリは翅端部が突出しないことから判別が可能。そもそも体型が全く違うので判別は容易。本種は上翅、前胸共に縦に長く、加えて側面から見た際の体高が薄いため「ぬりかべ」のような印象を受けるが、他2種は体高が厚く圧倒的にコロコロしている。

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側面

雌雄判別は前脚ケイ節、腹部、尾節板等で行う

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オス前脚ケイ節

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メス前脚ケイ節

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オス腹部。縦溝が見て取れる。

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メス腹部。縦溝はなく尾節板も出っ張る。

幼虫は典型的なシラホシ亜属の風貌
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3.生態

成虫は5〜9月に活動し、各種花や腐果実等に集まると思われるが、筆者自身が観察したわけではなく、加えて情報もない為詳しい事は不明。後述するように、幼虫自体は極めてありきたりなシラホシハナムグリと殆ど同様の生態をしており、成虫も同様の生態であることが予想される。肝心の幼虫はシラホシハナムグリ亜属の例に漏れず、木質を中心とした各種腐植質に生育する。その食性は広く、立ち枯れや朽木内フレーク、ヒラタクワガタの食跡、樹洞など。
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極端な例だと、幹の表面のみシロアリに食害された立ち枯れの、地面にフレークが積もった箇所からも産出した。
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上述の通り、私が観察した際はどのような環境からも満遍なく、かつ多数の個体が得られたが知人研究者や採集者は口を揃えて個体数が少ないと言う。食性を鑑みるに、森林性の高い箇所では多数得られるものの、一度ポイントを外せば探し難いといった種なのではないか。

飼育下では基本的に1年1化で春先に羽化した。成虫の休眠期間も1ヶ月ほどで、成虫越冬はしない。野外でも同様のサイクルを送っていると思われる。

4.飼育

産卵、幼虫飼育共に難しいことはない。
成虫は羽化後2.3週間程で後食を開始し、産卵に至る。繭玉を割っても特に支障はない。産卵はどのようなマット、湿度でも行われ、幼虫の食性も広い。発酵の浅いマットでも問題なく食し成長する。幼虫期間は半年程。


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1.基本情報

和名:タイワン(ヨナグニ)シラホシハナムグリ
学名:protaetia formosana nozatoi Miyake1986
系統:シロテン属シラホシ亜属
体長:18.5mm〜24.7mm
分布:与那国島

2.形態

体色は赤、紫銅色を中心に稀に黒銅色。
体躯は全体的に角ばっており、翅端部の強い突出と上翅中央下部の凹圧が特徴。シラホシハナムグリとムラサキツヤハナムグリをミックスして小さくしたような種だ。頭部前縁は凹圧しない。明瞭な白紋を有するが、白紋自体のパターンは概ね決まっており帯状になることはない。

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同所的にイシガキシロテンハナムグリ与那国島亜種が生息する。色彩、サイズ共に本種と極めて近しい外見をしているが、以下の点で判別が可能。

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左が本種 右がガキテン


1.頭部
シラホシは凹圧しない。シロテンは中央部で湾入する。
2.翅端部
シラホシは強く突出する。シロテンの突出は極めて弱い
3.後脚段刻
シラホシは1つ、シロテンは2つ
4.白紋 
当ブログでは白紋による判別を推奨していないが、あくまで傾向としてシラホシの前胸部白紋はまさに「点」であり、目立たない。シロテンの前胸部白紋は強く発達することがある。上翅部の白紋も同様。(下載画像のヨナグニシロテンは前胸部白紋の発達が弱いです、申し訳ナス)
5.点刻
シラホシは辺縁部に小さく密に上翅凹圧部に大きく強く刻まれる。小楯板周りの点刻は目立たない。シロテンは全体的に大きく雑に刻まれている。端的に言えば星は点と比べてかなり滑らか。

以上の点などで区別可能であるが、実際に見れば雰囲気が全く違うため判別は容易。

タイワンシラホシ
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ヨナグニシロテンハナムグリ
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タイワンシラホシ
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ヨナグニシラホシ
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雌雄判別は腹部又は前脚ケイ節。
オスの腹部は縦溝状に凹圧される。

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本種は台湾に生息するタイワンシラホシハナムグリの与那国島の亜種だ。原名亜種は本亜種と比べ白紋が発達せずサイズも若干大きい。
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台湾にて

ちなみに、ひょんなことから中国産のformosanaと思われる個体を入手したことがある。非常に強い光沢と赤みで、かなり美麗だった。是非とも累代したかったものの、オス単であった為泣く泣く〆た。
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3.生態

一年一化で成虫は6月〜7月下旬にかけて発生、8月上旬ごろまで活動する。カラスザンショウ等の樹液やアダン、イヌビワなどの熟果を利用する。イシガキ(ヨナグニ)シロテンのように花資源を利用するかは不明。本土のシロテン、シラホシのように餌ニッチを棲み分けている可能性もある。イシガキ(ヨナグニ)シロテンと比べてやや森林部、山地に生息するようだ。成虫の個体数が非常に多いにもかかわらず幼虫の発見例は非常に少ない。ちなみに、同亜属のシラホシハナムグリも成虫の個体数と幼虫の観察難易度が釣り合っていない。シラホシ亜属の種は殆どが木質由来を中心として、幅広い餌資源を利用している。本種においても、先達の発見例は朽木中から得られたというものだ。私自身も部分枯れの内部より本種の物と思われる糞を大量に確認したり樹洞から本種幼虫を採集している。

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観察例が少ないため断言はできないが、上記の事項から判断するに、恐らく木質由来の腐植物を中心に利用している物と思われる。幼虫期間は半年程だが、成虫での寿命も長いため、現地では適宜蛹室内での越冬期間を設け1年1化で活動しているものと思われる。

4.採集

シーズン中の採集は未経験なので又聞きの情報になってしまうが、シーズン中の果実トラップや樹液ルッキングで極めて容易に採集できるようだ。また、現地ではヒラタクワガタ類やセミ類が吸汁のために樹木の枝を傷つけ、滲み出た樹液を吸うためにコメツキムシや本種が集まりさらに傷口を広げるらしい。幼虫の採集は推奨できないが、上記のような樹洞、朽木等を探すのが吉と思われる。また、山によって個体数が異なるようで、生息地の付近は他ポイントと比べてシュロが非常に多いという特徴があった。台湾などで、ヤシ類はハナムグリ類の重要なホストの一つとなっている。このことから、本種もシュロの樹上枯れや、シュロ腐植物が堆積した土壌の深い箇所、人工的に伐採された葉が集められている場所等を積極的に利用している可能性もある。
(何故ここまで予測しているのに幼虫を大量に採集できなかったのかという問題について、原因はひとえに私が与那国を舐めきっていたからです。)

5.飼育

余談であるが、筆者が初めて飼育した国産離島ハナムグリでもある。産卵、幼虫飼育共に廃マットや腐葉土で極めて容易。共食いもせず、低緯度であることが功を奏しているためか、日照時間や体内時計など、成熟を成す要素に気をつかうこともない。

各亜種の紹介は別記事にて

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1.基本情報

和名:リュウキュウツヤハナムグリ
学名:protaetia pryeri pryeri Janson1888
系統:シロテン属リュウキュウツヤ亜属
体長:20.0〜28.3mm
分布:沖永良部島、沖縄本島、古宇利島、伊平屋島、伊是名島、伊江島、渡嘉敷島、粟国島、久米島

2.形態

南西諸島に生息する中大型のハナムグリで、本記事で取り扱う原名亜種は沖縄諸島を中心に生息している。体色は鮮やかな緑銅色を中心に赤銅色、極稀に青銅色を呈する。巷で有名な、都区内産のリュウキュウツヤハナムグリは奄美大島の亜種であり、青い個体は出現しない。一方で明るい褐色の個体は奄美大島の亜種に特徴的であり本原名亜種では出現しない。詳しくは亜種解説のページを参照。上翅には白紋が散在するが、消失する個体も多い。

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全体的に点刻はやや密になり、特に上翅中央下部凹圧部の点刻は非常に密度が高い。頭部辺縁部は中央で凹圧し、翅端部は殆尖らない。
他種に比べて胸部に対する腹部の面積比率や尻そのものが大きく、全体像を真上から見ると、雫型もしくは三角形に近い、どっしりとした印象を受ける。

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生息域が被り外観も似ているリュウキュウオオハナムグリ類とは後脚の断刻をはじめとした様々な箇所で判別が可能。 

リュウキュウツヤの段刻は1本であるが
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オオハナムグリの段刻は2本存在する。
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他にもリュウキュウオオは翅端部が若干突出するがリュウキュウツヤはしない、リュウキュウオオの脚部は殆どの場合、胴体と異なる茶褐色や桃色を呈するが、リュウキュウツヤは胴体と脚の色が変わらない、その他体型等だ。

雌雄判別は尾節板や前脚ケイ節で行う。
オスの前脚ケイ節には明確な外棘歯が2本と不明瞭な一本が存在する。

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メスの前脚ケイ節には明確な外棘歯が3つ存在する他、ケイ節自体も広がっておりヘラ状だ。

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幼虫も特徴的な形状をしている。体型は一般的なprotaetia類の幼虫と似ているものの、表皮は半透明かつ体毛を有する。内容物が透けると共に体毛に土が付着するため、野外で見ると灰色に見える。


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3.生態

海岸から山中まで幅広く分布し成虫は5月〜10月にかけて発生する。ホルトノキをはじめとした様々な花やタブノキ等の樹液、アダンやアコウの熟果に多くの個体が集まる。沖縄市街や周辺離島において最も個体数が多い種であり、街中でも低空飛行している様が観察できる。日光を受けると青色に見えるため非常に美麗だ。
本種の個体数の多さは幼虫の食性と生活サイクルに基づいているものと思われる。殆どの個体は産卵されてより10ヶ月前後で羽化し、1ヶ月程度の休眠期間を経て活動、繁殖に至る。晩秋に羽化した個体は翌春まで休眠をするだろうが他の季節に羽化した個体はほぼ周年羽脱しているのではなかろうか。本原名亜種のピークは7月中旬になるようで、これは他の亜種より少し遅い時期となる。

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幼虫の食性も広く、主に落葉などの腐食物が堆積する林床や崖下など、あらゆる土壌から得られる。この屈強な生態から奄美亜種は都区内や伊豆諸島で急速に分布を広げている。筆者の知人は大阪府内でも確認をしていた。

4.採集

成虫は花掬いや樹液ラッキング、果実トラップ等で多数得られる。
バナナトラップを用いた場合本種は他の種に先立ち即座に集まり、やがてトラップ自体を覆い尽くしてしまうこともある(通称ミラーボール)

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新成虫、幼虫共に林床から周年得られる。新成虫を確実に採集するのであれば、冬季〜春季が最も理想的だ。
特に奄美亜種は都区内の公園で大繁殖しており林床の落葉をのけるだけで非常に容易に、短時間で多数の個体を得ることができる。

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5.飼育

産卵、幼虫飼育は至って容易で、どのようなマットでも問題なく産卵、成長する。とはいえ少々分解の進んだ餌を好むようで、分解の進んだマットを用いると共に土砂を混ぜ込み栄養過多を避けると羽化不全や外観の異常を防げる。

累代品の新成虫管理が少々厄介で、温度が上がる時期(つまり春季〜初夏)に羽化した個体は1ヶ月ほどの休眠期間を経て産卵に至るものの、晩夏〜冬季に羽化した個体は翌年の春まで休眠をさせないと産卵に至らないまま採食だけは行い続け、そのまま死亡することが多い。

存外デリケートなため、累代飼育を重ねるのであれば繭玉を割らないこと、四季の変化をつけてやることが肝要。


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