この記事は2019年に執筆した物を再編集した物です。

私はミヤマクワガタを知りません。思うにミヤマの成虫採集は国内で最も競技人口が多い種目ではないでしょうか。同時に何十年も続けていらっしゃる方の知識量を前にするとまるで自らが何も知らないかのような錯覚を覚えます。そんなミヤマ採集ですが、灯火で70upは抜けずとも、例の如く幼虫の生息環境については人並み以上に把握しているつもりです。手軽かつ奥が深い成虫採集に取り組む傍ら、この機会に本種の幼虫環境を知っておくこともまた一興なのではないかと思います。

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0.島嶼のミヤマ

本題に入る前に、今回も小話を挟みます。ミヤマは歯型に注目が行きがちですが「足の色」に注目されることはあまりありません。通常ミヤマの脚はケイ節のみに黄紋を呈しますが、黒島や福江島の個体群は腿節にも同様の黄紋を呈することが知られています。福江島のミヤマは比較的個体数が少ないとされていますが、生息数や低地において生き残っている理由など諸々が横浜ミヤマや千葉ミヤマと同様の背景を持っているのではないかと思います。

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また、隠岐西ノ島のミヤマも同様の特徴を呈するようで、複数個体採集した結果どれも横紋を呈していました。

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島嶼のミヤマ自体、腿節の黄紋が固定される傾向にあるのかもしれません。

1.本記事の構成

さて、今回はミヤマ(maculifemoratus)の幼虫生息環境です。最近良く質問されるので、違うお友達の記事も書いてしまおうかと危うく揺れていましたが、引退するまで温存しておきます。少なくともアレは本種の生態とは全くの別物ですし、リュウツヤのお陰で現在巷に出回っている既存情報とも多分に相違が産まれてきているものと思われます。むしろ一周回ってオオシマアオハナムグリの生態記事を参照した方が余程参考になるとすら思いました。ミヤマ幼虫が立ち枯れ地中部に巣食うこと自体は既に広く認知されています。そのため、単純に「立ち枯れ掘ったらミヤマ出ました!」と言った記事では面白みに欠けるでしょう。聞いてるか4年前の自分。本記事ではより解像度を上げるため、ノコギリという最大の競合種とどのような棲み分けをしているかという切り口から、ミヤマ幼虫の生態に詳しく迫ります。

ちなみにミヤマの幼虫は本土産国産クワガタの中でもかなり特徴的で、体毛や丸みを帯び黒々とした太い顎、幼虫ながらに音を発するといった特徴から判別が可能です。

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2.利用する材の状態や枯れ方の相違

両種とも条件に対して寛容な傾向にあり特定の枯れ方に依存しているといったことはありません。加えて、野外においては飼育下で重視されるほど水分量にもこだわりがなく、極端に乾燥していなければ問題なく利用する傾向にあります。肝心の材の様子ですが、簡単に言えば、ミヤマとノコが混成するような地域ではミヤマはやや腐朽が進んだ材を、ノコは生に近い物からかなり腐朽が進んだ材を利用します。この場合ノコとしてはオオクワが入るような綺麗な白枯れ材の埋没部を好むようです。反面、ミヤマのみが生息する高山帯では、ミヤマ自身かなり腐朽の進んだ材からヒメオオが入るような腐朽が浅いものまで広く利用しています。

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要するに、材の好みにうるさい訳ではないため採集の指標としては役に立ちません。飼育的な観点から役に立つ情報を述べるのであれば、やはり断然腐朽が進んでいない材から得られる幼虫の方が大型化する傾向にあります。また、あくまで所感としてですが、生木に近い木から幼虫が出土する場合、個体密度は低くなる傾向にあるように思えました。あくまで予想に過ぎませんが、腐朽の浅い資源は本来消化に適した範囲から逸脱しており、大型化はするものの、生存率自体が下がってしまう餌資源と言えるのでは無いでしょうか。

3.幼虫の生息密度

先程個体密度に触れましたが、本節では同じ材内において多数の幼虫達がどのように暮らしているかといった意味での個体密度に触れます。
ご存知の方も多いかと思いますが、ミヤマやノコはステージごとに生活する場を変えます。

ミヤマは初令〜3令の間は同じ材内で寄り添うように生活し、3令中期になると材を脱出し、地中にて単独生活を送るようになります。

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太もも程度の細さの材から出たミヤマ幼虫ズ

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対照的に、ノコギリの場合は、1.2齢の間はお互い距離を取り単独生活を送り、3令ともなればお互いが触れ合うか触れ合わないかギリギリの距離感で、寄り添うようにして蛹化のタイミングを待ちます。次節にも関係する内容ですが、ミヤマの場合材と地中を広く利用する反面、ノコギリの一生は材周りで完結するという違いがあります。

4.どのように材を齧るか

前節で、両者が各ステージにおいてどこで生活しているか、という点に触れました。双方若齢時は一般のクワガタと同じく材の内部から材を食い進みますが、3令になると特徴的な材の齧り方をします。正確に言えば「どこから材を齧るか」といった点が特徴的です。

ミヤマの場合、幼虫は3令になると程なくして材を脱出し、土中から材を齧るようになります。蛹化直前のギリギリまで材周辺にいるようで、高山帯で立ち枯れを蹴っ飛ばすと、材が割れずとも幼虫が出ることがあります。

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一方ノコギリは3令になっても、材の体積が小さい、状態が悪いといったことがない限り、基本的に材を脱出しません。3令幼虫は材内部に蛹室とは異なる部屋を作り出し、内部で自ら壁を削り木屑を発酵させ劣化させた後摂食するという器用な芸当をこなしています。3令に栄養価の低い餌を与えることで暴れや腹ボテを防ぐといった飼育技術がありますが、上記の生態と繋がっています。勘違いされがちですが、ノコは土などを摂食している訳ではありません。

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5.どこに蛹室を作るか

3令時に過ごす場所は蛹化する場所とも密接に関わっています。両種とも漠然と地中に蛹室を作る旨は知られていますが、やはり一口に地中と言っても棲み分けがなされています。
ミヤマは、地中のかなり深く、1メートル前後の粘土質土壌に蛹室を作ります。勿論そのような深さともなれば立ち枯れの根部が途切れていることも多く、本種がただひたすら鉱石土壌を掘り進んでいることが分かります。長い休眠期間を過ごすには深い安全な箇所で蛹室を作る必要があるのでしょう。


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石等も利用して器用に蛹室を作るようです。

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観察事例が少ないために断言はできませんが、ほとんど全ての個体がある程度の深さに蛹室を作っているものと思われます。ヒメオオ材割りに赴く際、根際を掘ったり立ち枯れを蹴り倒す際に、度々ミヤマの3令幼虫は目撃しています。しかし、新成虫は意図的に掘り起こした際を除いてただの一度も観察したことがありません。このことから、1メートル前後の深い箇所まで潜っているとまでは行かずとも、少なくとも何かの事故で容易に掘り起こされるような浅さには蛹室を作っていないことが予想できます。

一方、ノコギリは土壌さえしっかりしていれば地中の比較的浅い箇所、幼虫時代に巣食っていた材のほど近くに蛹室を作ります。そのためにマイマイカブリやオサムシを採集する方々が根返り等から新成虫を掘り出す事例が多々存在するわけですね。

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以上のように、生活圏が被る両種といえども、緻密な棲み分けをなしています。

ちなみに、野外でミヤマ新成虫を掘り当てるメリットがあるのかと聞かれれば、ほとんどありません。夏季であればいとも簡単に採集できる本種ですが、新成虫を掘り出すともなれば土石混じりの土壌を1メートルほどひたすら掘り進むという苦行が待っているからです。勿論鉱石土壌中には食痕が残されていないため、掘った先に新成虫がいるかどうかもわからず、ハッキリ言ってコスパが悪いことこの上ありません。そうは言えども、新成虫の輝く金毛と赤みがかった体色は非常に美しく、泥に塗れてでも一見する価値はあります。飼育で見れるだと貴様この野郎成果よりも過程に重きを置く人にとってはチャレンジしがいのあるアクティビティかもしれません。

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