私はスジクワにもかなり思い入れがあります。スジクワ材割の記事は高校時代に一度執筆しており(現在は非公開です)当時から「この経験を屋久島で活かし、記事を書く」と決めていました。


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予定通り屋久島でスジを採集したので伏線回収的な意味も込めています。決して密かに応援している知人が屋久島に赴くからといった事情とは無関係です。さて、樹液採集で他種のオマケのように採集されがちなスジですが、幼虫は勿論他種と棲み分けを成しており、狙って採集することも可能です。しかしながら役に立つ場所は現状国内においてただの一箇所、つまり屋久島ぐらいしかありません。私自身書きながらこの記事の存在意義に疑問を覚えています。


1.スジクワあれこれ二つの系統

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スジクワといえば郊外の雑木林や河川敷から、1500メートル級の高山まで生息している愉快なお友達です。山地性の傾向が若干なきにしもあらずといった感じですが、低地に生息する個体群の方が大型化する傾向にあります。では、高山地帯で採集できるスジクワは大型化しないのでしょうか?あくまで噂ベースとして、高山帯に生息する個体群は野生では大型化しない、とのことです。これは特段私が検証をしたという訳ではありません。高山特有の低温環境が成長を妨げている、といった環境的な要因ではなく根本的に低地の個体群とは系統が違うために大型化しないようです(本当か〜?)

低地〜中山帯に生息する本種は、余程の小型個体でない限り内歯を有します。一方で、高山帯に生息する本種は殆どが内歯がないしょぼくれた2センチ前後の個体が殆どです。低地だからといって、ある程度のサイズが保証されるといったことはありません。あくまで高山帯において内歯が発達するサイズの本種が見られないに留まります。都内の多摩地区など、河川敷といった低標高かつ比較的温暖な環境においてもスジクワは確認することができますが、そのような環境に見られる個体は十中八九小型で、コクワの極小個体と勘違いされ見向きもされない例が多いように感じます。

これらの個体が小型化する要因として考えられるものは二つ、単純に河川敷の暗澹な気候が合わないか、上流の高山ブナ帯から流れ着いた個体群が定着しているかの二つです。河川敷スジをカワラ等で飼育した結果小型個体しかでないようであれば後者の説が有力になってきそうですが、私自身やる気にならないのでどなたかお願いします。この噂話を出したのは単なる蘊蓄披露ではなく幼虫環境の解説に関係があるからです。詳しく見ていきましょう。


2.幼虫環境 低地

まず始めに本種が入る物件を探しやすい環境について触れます。物件と違いこちらは不確定要素を多く含む特徴ですが、傾向として本種は成虫幼虫共に薄暗い環境に生息することが多いように感じます。この傾向が正しいかどうかすら不明ですが、理由付けを行うのであれば下記の通りです。まず、基本的にスジは「綺麗な白色腐朽材」をあまり利用しません。白色腐朽菌は風通しの良い場環境を好む傾向があります。また、そのような環境においては、飛翔という移動手段が支障になりにくくあります。スジと同所的な環境を利用し、生息域が被りがちな種にノコギリがあげられますが、白色腐朽材自体も、それを生み出す飛翔が邪魔にならない環境もノコギリにとって有利なものです。反面、スジが好むであろう薄暗い環境は、得てして高湿度であり、綺麗な白色腐朽材が少ない傾向にあります。一概には言えませんが、このような「薄暗い環境」の例には北側の斜面や木の密度が濃いと言った環境が挙げられます。木の密度が濃い場合、飛翔という手段はあまり好ましいものではありませんが、スジの「基本的に飛翔を行わず、歩行を多用する」といった習性が理に適ったものとなっています。明確な棲み分けとまでは言えないもののノコギリとはうっすらと差別化を図っているように思えます。

環境については以上です。続いて物件(材の様相)について解説します。

本種が入る物件を大別すると

・綺麗に枯れていない埋没材の表皮付近

・上記のような物件の分解が進んだ黒枯れ材

に別れます。綺麗に枯れていない埋没材とはどのような材でしょうか。想像がつきにくいと思いますので、画像を交えつつ確認していきましょう。後者に関してはPCに画像を保存しており現在pcが大破しているため画像をアップロードできません。半年後ぐらいにアップロードされていると思います。

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画像をご覧頂くと共通する特徴がお分かりになるかもしれません。材の外観的な特徴を述べると、黒い線が入っていたり、材の樹皮が消失していること、黄土色に朽ちていること等が挙げられます。まず材に入る黒い線について、材を分解する幾つかの菌が拮抗し合っている境界線だとか、雑菌が混入しているといった説があります。水分が多い埋没材ともなれば様々な菌が繁殖することも納得できます。詳細は不明ですが、この黒い線は多分に水分を含む材に重点的に見られることから、特定菌種による腐朽が成す特徴かもしれません。(マンネンタケ?)
このような材は得手して肉質が悪く、表面や一部が柔らかく他は極端に固い場合が殆どです。硬いと言えども新しく朽ちてないが故に硬いわけではなく、古くなっても尚硬いような材が殆どであるように思えます。れは二つ目の特徴とも合致しますが、樹皮が失われる程度に古くなっても硬いまま残っている材が多いように感じます。硬さは画像で伝わりませんが、下画像はスジが多数入っていた埋没材で、黒い箇所は硬くて削れない材の表面となっています。

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色味に関しては埋没自体が水分を多く含んでいるといった要因が考えられますが、水分量が多いということは、通気性の良い環境を好むカワラ菌とは異なる菌により朽ちている可能性が高いとも言えます。埋没材であっても綺麗な白色腐朽が見られるケースは多々あり、そのような箇所にはノコギリが入りますが、スジは入りません。下画像の材では右からノコギリ、右からスジが出土しました。

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スジの幼虫形状はかなり特徴的なので判別が容易です。言語化は難しいですが、他種のような一般的なC字姿勢とは異なり細長い体躯のために尾の部分が頭の位置より伸びるシルエットや水分が多い材を食す種に見られる腹部の紫がかった内容物等が特徴として挙げられます。

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掘り起こした後の、材をさらに割った際の視覚的特徴を述べたために「結局どんな材を探せばいいんだよ」と怒られそうです。上記の特徴を簡単に言い換えると以下のようになります。
湿度を多分に含んでおり、かつ古めで硬めの白色不朽でない埋没材

一口に埋没材と言えども、倒木が土に埋もれているのか、立ち枯れの根部を指すのかといった違いがあります。結論から言えばどちらも利用しますが、やはり圧倒的に後者に多い傾向があります。このような材は地上部を見ても殆ど芯だけしか残っていなかったり、見るからに貧相で枯れ方が悪いような印象を受けるため判別が容易です。本種が、所謂他種が利用しないような「粗悪な環境」を優先的に利用しているか否かは不明です。少なくとも真っ新な白枯れ等を利用しているケースは殆ど無に等しいかと思われます。少なくとも私は見たことがありません。本種は材のどのような部分を食すのかという点も特徴的です。硬い材を利用すると言えども、スジが材の中心部にまで食い込むことは稀です。大抵の場合スジが入る埋没材の表面には所々柔らかい部位があり、幼虫はそのような箇所から硬い部分に沿うように材の周りを食い進めます。蛹化も同様の場所で行われます。そのため、立ち枯れを蹴飛ばしたりひっくり返した時点で柔らかい部位が分離し、幼虫や新成虫が出てくると言ったことも少なくありません。同時にスジが好んで利用する柔らかい場所は大概硬い部位に囲まれており、割り辛いことこの上ありません。硬い部分を割ろうと獲物を振り下ろしたら、本体に直撃...といった事故が最も多い種だと考えています。

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他にも湿度の高い倒木下部や、細枝、埋没or接地している黒枯れ材にも入りますが、やはりダントツで立ち枯れの根部から多く出ます。逆にノコギリ等と異なりどんな細い木の根でも、どんな粗末な枯れ方でも出るために、粗末な材に狙いを絞ることで本種も狙って採集することが可能です。


3.幼虫環境 高地

続いては高山に生息するスジの環境特徴です。基本的には平地と変わりませんが、こちらの方がより幅広い環境に生息しています。

平地では立ち枯れの根部に圧倒的に多いスジですが、高山帯では立ち枯れは勿論、あらゆる倒木の接地面から出ます。まるでヒラタにおける関東と関西の違いのような印象を受けます。また、高山では同所的にヒメオオやオニクワ、ミヤマが混成します。先程述べた平地におけるスジ材の外見的特徴はヒメオオ材に近いのでは、と感じた人もいるのではないでしょうか。

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実際に高山スジはヒメオオと同じ材から出ますが、スジはより表面の古くなっている箇所を、ヒメオオは内部の未だ硬い箇所を食い進んでいるようです。また、スジが多く出る材に入るヒメオオは得手して小型です。これは、材自体が古くなり過ぎておりヒメオオに適した状態で無くなっていることが原因かと思われます。一口に倒木や立ち枯れと言っても特徴があります。まず、基本的に高山ブナ帯においてクワガタが入る朽木は、平地のサクサク割れる綺麗な白枯れではありません。上画像のように菌が回っているものの、しっかり硬く水分を含んでいるような材を中心に利用します。基本的には分解が浅いとヒメオオが、少し分解が進むとアカアシ、より古くなるとスジ、黒枯れ化するとオニが利用するといった棲み分けをしているようです。ヒメオオ材をブロックハンマーで崩すにはかなりの労力を要しますが、スジが好む材はブロックハンマーで容易く崩せる程度に古くなった物であり、特にアカアシやヒメオオが利用した結果、食跡が縦横無尽に走っているような、苔むした倒木の、設地面から多く得られます。こちらも画像を貼るに越したことはありませんが、高山帯ブナ帯におけるスジの個体密度は、平地のコクワと同程度であり、わざわざ撮影していないという事情から掲載に至っていません。同所的にオニクワガタと混生しますが、オニクワはより水分が多い完全な黒枯れフレークに近い箇所を重点的に利用していることから棲み分けが為されています。

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4.屋久島の事例

続いて、屋久島での事例を紹介します。

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上画像は本土スジの赤みがかった個体です。うーん騙された人もいるんじゃないかなwヤクスジと本土スジの形態差異として、体色だけでなく、内歯の上下長さの違いが挙げられます。ヤクスジの方が一般的に長くなる傾向にあるようですが、皆さんは判別がつきますでしょうか。ちなみに、下画像はどちらも35mm個体です。是非比較してみてください。


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本題です。屋久島においても幼虫の生息環境や物件は変わらず、標高500m前後から多産するように感じます。標高を下げすぎるとコクワが増え上げすぎるとオニが増える印象を受けます。本土であればオニが幅を利かせている環境は高山帯に限られているため、スジ材の条件はさほどシビアではありません。しかしながら、屋久島においては標高500メートル地点においてもオニの個体数が極めて多いため、倒木やただの埋没材といった物件からスジを採集することは少々面倒が伴います。屋久島でスジ材を確実に当てるのであれば、冒頭に紹介したような立ち枯れ埋没部の古くて硬い粗末な枯れ方をしている材を探すことが最短ルートかと思われます。

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三重でスジ材を割りまくっていた時代から屋久島スジを出すことを夢見ていました。結局その些細な夢は叶ったのですが、欠航や天候により夜間の大雨の中、2時間程度しか採集時間を確保できず、肝心の材でも幼虫を4匹とオス成虫を潰すという痴態を犯し、不完全燃焼ここに極まれりといった具合でした。観光等もできなかったため、いずれ再び赴きたいと考えています。



余談ですが、海外においても生息傾向は概ね変わらないようで、台湾でも同様の材から近縁種が得られています。SNSで雲南地域の材割光景を見ている限り、こちらも近縁種が見事に同様の材から得られている旨が窺え感動しました。

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国産スジに限定すればあまり役立たない情報も飼育の材料と捉えれば活用範囲は広がるのではないでしょうか。リョフ、ゴンシャン、フジイetc...スジクワ幼虫の利用環境概説は以上となります。画像という視覚情報を欠くと、これ程にまで説明が難しいとは思いませんでした。むしろ画像があったとしても伝わらない特徴も多々あるので、言語化の訓練が必要かもしれません。更に言えば言語化が上手くできないということは環境の観察事例が足りて無いと言えます。まだまだ改善点はありそうですね。