国ブン手稿

主にアマチュア採集家が国産ハナムグリ×クワガタの生態に迫るブログです

カテゴリ: 国産ハナムグリ応用篇

前回のおさらいです

・遺伝性の体内時計が存在、連続的な温度変化や日照時間といった環境条件の変化が影響を与える。体内時計が弱い、あるいは存在しない種も存在

この点を押さえていただき、本論を読み進めてください。

1.活動時期はどう決まるのか

私は、昆虫の活動時期もといハナムグリの活動時期を決める要因において、温度は重要な位置を占めないと考えている。勿論極端な低温では活動できないが、例えば野外において平均最高気温が20度を超える4月でも、多くの種は活動が鈍い。20度ともなれば、飼育下では盛んに活動する気温だ。それでも活動が行われないのはひとえに十分量の餌資源が確保されない時期であるからではと考える。彼らは、これらの資源が安定して供給される時期に羽化をし、活動をする。前記事でも触れた通り、昆虫の羽化は「羽化ができる程十分な成長を遂げている」タイミングで「暦上の適切な羽化時期」が訪れることで行われる。ここで言う暦上の適切な羽化時期とは言うまでもなく資源が安定して供給される時期だ。では、この時期を彼らハナムグリはどのように知覚しているのであろうか。前記事を読んだ方であれば、ハナムグリも例に漏れず適切な羽化時期を体内時計により見定めていることは想像に容易いだろう。本節では飼育下や野外における実際の例を織り交ぜつつ、ハナムグリにおいても特定の活動に体内時計が絡んでいる可能性を再確認する。

1-1 羽化時期と体内時計

まず、幼虫が成長を終えているにも関わらず温度を無理やり上げても羽化しない、アオハナムグリの飼育事例を紹介する。本種は5月ごろ産卵された場合、3ヶ月程度で羽化することができる。一方で、概ね7月以降に産卵された個体は翌年3月頃までみっちり幼虫を続ける。加温により多少羽化を早めることはできるが、仮に2ヶ月程度早めたとて、7ヶ月と3ヶ月とでは大きな差がある。

次に、活動に支障をきたさない一定気温(23度)で飼育しても、低温から休眠してしまう野外個体と、大差ない時期に羽化するキョウトアオハナムグリの例を紹介する。野外においてキョウトアオハナムグリの羽化は概ね8月以降随時行われ、半年程度の休眠期間を要する。野外において冬季は低温により成長が強制的に一旦止まってしまう。対して室内では温度が一定である以上、成長は止まらないはずだ。にも関わらず、飼育下においても羽化時期は晩夏であることが殆どであった。

以上2例からは、温度に関わらず羽化時期が固定されている旨が推測できる。室内、もとい地中においては日照時間の変化等も知覚できない。

このことから、少なからず羽化時期は気温や日照等により決まると言えないことがわかる。室内環境という手前、他に季節を知覚させる外的要因が見当たらない以上、羽化時期に影響を及ぼすものは虫自身、つまり体内時計機能やあるいは未知の内的要因にあるのではないか。

1-2産卵時期と体内時計

では羽化後成虫の活動や産卵はどのような具合だろうか。そもそも体内時計一連の記事と考察は「野外品を産ませたセットで、幾ら加温しても飼育品が産卵しない」という問題から始まっている。例えばムラサキツヤやカバイロハナムグリを始めとした多くのprotaetiaは、16月といったタイミングに後食を開始した場合には程なくして産卵に至る一方で、8月以降に後食を開始した個体は、幾ら温度や湿度を上げようが翌年まで産卵を行わないことが殆どであった。オオシマアオ亜族に至っては、後食すら行わない亜種も少なくない。つまり、外部の刺激とは無関係に、彼らの体内には特定活動の時期を決める要因、つまり体内時計のようなものが存在することが予測できる。

1-3ハナムグリの餌確保は日長次第

体内時計といえども、彼らにとって重要なのは特定の暦に羽化したい、といった数字的なこだわりなどはなく、あくまで適切な環境や餌資源が確保できるか否かが最重要の懸案となっている。ハナムグリは餌資源の発生に連動した体内時計という機能を持っている。では、自然界においてこの餌資源はどのような指標に連動して発生しているのか。

ハナムグリ亜科成虫が利用する餌は大別すると花由来のものと、樹液由来のものに分けることができる。樹液はともかく、前者の「花」は季節にうるさい。開花時期は毎年一定であることが殆どで、花が咲くタイミングを日照時間の変化に左右されている種が多いことは有名だ。要するに、ハナムグリの体内時計も概ね「日照時間」という指標に連動して活動時期を決めることで、確実に餌を確保しているのではないか。

実際に他種の例であるものの、花を餌資源として利用するカツオブシムシやカメムシの類では日照時間が繁殖に大きな影響を及ぼすことが確認されている。彼らには、1日のうち最低n時間太陽が出ていれば繁殖に移る「臨界日長」という指標が存在するようだ。果たしてハナムグリにもこの性質が当てはまるのか、先に挙げた羽化や産卵の例と照らし合わせてみよう。

日長(昼の長さ)は、夏至(6月21日前後)に向かうにつれ長くなり、夏至を過ぎ冬至(12月21日前後)に至る前までの期間で短くなる。冬至を過ぎれば再び日長は長くなり始める。

まず羽化時期について、先に取り上げたアオハナムグリの事例であれば5月に産卵され8月に羽化する個体と、7月に産卵され翌年まで羽化しない個体が存在する。アオハナムグリが活動開始時期は4月中旬以降だが、上グラフを見ると日長は概ね13時間となっている。このことから本種の臨界日長は13時間と見て良いだろう。13時間以上の日長が確保されるのは5.6.7.8.9月となっている。5月に産卵された個体が3ヶ月で羽化しても時期は8月、十分な日照が確保されているが7月に産卵された個体が3ヶ月で羽化しても時期は10月、臨界日長を確保できていない。

次は産卵について、ムラサキツヤハナムグリを例に考える。本種は4月に羽化した場合その年の5月頃には産卵を行う。このことから、成熟期間は1ヶ月程度と見て良いだろう。しかし、9月など晩夏に羽化した個体は翌年まで産卵を行わない。9月に羽化した個体が成熟を終えた頃には既に10月だ。5月の日長は13.5時間、10月の日長は11.5時間と大きな差がある。10月ともなれば本種の臨界日長を割っていてもなんら不思議ではない。一方で、室内において1月や2月といった時期に羽化した個体が産卵に至るケースも少ないながら存在する。これには該当の時期が「これから日長が長くなっていく時期」であることや「人工照明の影響」が考えられる。少なくととも、10月〜12月といった日照が短くなっていく時期に産卵が見られないことは確かだ。

繰り返しにはなるが、以上の例は全て外気温の影響を受けない室内という環境で観察されている。必ずしも明確な線引きがあるわけではないものの、ハナムグリにおいても羽化や繁殖が行われる時期は日照時間と関係があること、それらの時期は体内に刻まれていることが推測できる。


2.環境刺激への反応

前章ではあくまで、暦と体内時計が同期している状態での行動基準を述べた。実際、体内時計が正常に機能している限り多くの種は適切な時期に羽化し、そのまま産卵に至る。仮に本来野外で羽化しない時期に羽化させてしまっても、本来の産卵シーズンまで冷蔵庫等で強制的に活動を抑えればなんら問題はない。遺伝的な体内時計が強い種であれば、飼育下においても体内時計が適切に機能する。しかし現実として、多くの種の体内時計は、日照や連続的な温度変化といった環境刺激に影響を受けてしまう。これは前記事でも繰り返し述べている通りだ。

本来、環境刺激の影響というものは、自身の体内時計を暦に同期させる材料でもある。冷夏や暖冬が存在する通り、季節と気候は毎年一定のものではない。これらの細かい差異へ対応する機能として、環境刺激を受けて体内時計が微調整される。そのため、例年より気温が高かろうが、昆虫の発生が大幅に早まったりすることはない。しかしながら飼育下という環境では、日照時間の変化も温度の連続的な変化も知覚できない場合が殆どであり、これらの調整がうまく機能しない。そのような状況下において、ハナムグリはどのような反応を示すのか。

まず、日照時間の変動を感じ取れないことから生じる狂いを紹介する。アオハナムグリの産卵について、本来野外における活動時期には確保されている十分量の日照が室内では確保されていないことを受け、体内時計に狂いが生じたであろうケースが観察されている。アオハナムグリのような訪花性のハナムグリの累代品は然るべき時期に野外品を産卵させている環境と同条件のセットを組み、自力ハッチを待った個体を使用しても産卵を行わない。アオハナムグリを飼育していた環境は薄暗い室内であった。つまり、アオハナムグリが直面した状況は、体内時計に従って臨界日長に達している筈の時期に羽化したにもかかわらず、周囲は真っ暗だった、という異常事態だ。本来6月といえば夏至、つまり昼が最も長いような時期だ。それを薄暗い部屋で飼育していたら「今は冬か?」と体内時計に狂いが生じたしまうのも致し方ない。本来野外で温度変化や日照時間の変化が起きている中、室内で温度変化や日照時間の変化がない、といった状況は虫の体内時計からすれば「刺激」の一種と言えるのではなかろうか。そして、そのような刺激は体内時計に影響を及ぼしてしまう。

逆に、日光が当たる環境下だからこそ産卵が成功する事例も存在する。現在、一般的にキョウトアオハナムグリはf1以降の産卵が難しいとされているが、筆者環境下でf1f2の採卵に成功している。失敗している方々との差異は、休眠期間を設けていること(適切な時期に組んでるか否か)や活動後、日照を感じ取れる箇所にケースを置いていること等が挙げられる。後者は気休め程度に行っていたものであるが、休眠期間を設けているだけの飼育者が採卵に失敗している旨を見る限り、少なからず日照を知覚させる効果はあると言えそうだ。

日照が体内時計や行動に大きな影響を与える一方で、温度に関しては「高温にした=活動した」といった単純な法則は成り立たない。基本的に(少なくともハナムグリは)急激な温度変化の影響を受けにくい。しかし温度の変化に全く影響を受けないということはなく、「連続的な」温度変化に影響を受ける。

連続的な温度変化が体内時計、及び行動に影響を及ぼす例としてアカマダラハナムグリの採卵を取り上げる。アカマダラハナムグリは冬季、低温に晒すことが産卵のキーと言われている。しかし、こちらも、ただ低温に晒せば産卵するという訳ではない。例えば屋内飼育で11月頃まで通常の室温で飼育していると普通に活動を続けている場合が殆どだ。このような個体を「冬になったから低温に晒そう」と冷蔵庫等に入れても、翌年の産卵は見込めない。一方で、秋口より屋外に放置し、連続的な気温の下降と春先の気温上昇を感知させた個体は、正常に体内時計が作用し、産卵に至る。このように行動に影響を及ぼす=体内時計に影響を及ぼす温度変化は、連続的であることが鍵となっている可能性がある。

次に、幼虫の生育について取り上げる。本土に生息するハナムグリ亜科は、野外において気温の下降を感知すると自ら周囲の土を押し固め、越冬部屋を作成する。部屋に篭った幼虫は糞便を出し切り体を縮めると共に越冬体制に入る。このような状態に入った個体は、基本的に加温しても越冬体制を解除しない。この状態では正常に体内時計が機能しているといえる。正常に体内時計が機能している背景には連続的な温度の下降を感じているという要因がある。一方で、急激な温度上昇は体内時計に影響を与えることができていない。「高温環境で早期羽化した」といった事例は、本来の野外環境であれば気温の下降が感知できるにも関わらず、飼育下という特殊な環境において、一定の気温に晒され続けることにより体内時計に狂いが生じたケースとして説明ができる。

以上のように、室内でも「野外で生育していれば感知する筈の日照時間の変化や連続的な温度変化を感知できない」という刺激が、体内時計ひいては行動に影響を及ぼすことがわかる。


3.体内時計観点からのカテゴライズ

体内時計が独立してしっかり機能する(環境刺激の影響を受けにくい)種に限っては特定の時期にセットを組むといった手法で累代が可能であることに触れたが、現実として産卵の体内時計の相関については三通りのパターンが見られる。

1.体内時計や環境刺激を必要としない種

タイワンシラホシ、シラホシ、ミヤコオオハナ、ハイイロ、ナミカナブン、(アオカナブン?)

2.環境刺激による微調整が必要となる種

(特定の季節に組むと共に環境刺激を与える)

ミヤマオオ(?)クロハナ、コアオ等訪花性ハナムグリ、キョウトアオ、オオシマアオ、アオヒメハナムグリ、アカマダラなど

3.体内時計が存在し、環境刺激を受けにくい種

(ただ特定の季節に組みさえすれば産卵に至る)

ムラサキツヤ、オオシマアオ、イシガキシロテン、リュウキュウツヤ、カバイロ、シロテン、アマミオオ、サキシマアオ、クロカナブン等

ハナムグリに詳しい方であれば、上記カテゴリの共通項が見えて来るのではないか。このカテゴリは、主に生息地域と食性により大別することができる。体内時計の概説記事でも触れた通り、基本的に緯度が低い(赤道に近い、緯度が低い)ほど季節の変化が少なく、従って活動時期の制約も薄くなると考えられる。そのため、体内時計を持つ必要や、環境刺激に同調して行動する必要性が薄い。

食性の観点では、花をメインに利用する種と比べると、やはり植物の生組織を齧ったり、樹液を利用する種の方が季節に縛られない傾向にある。例えば果実や樹液を利用する種は特定の時期に羽化せずとも問題なく繁殖に至ることができる。要するに季節にこだわりがない。それ故暦状冬季であろうと、体内時計がある程度活動時期と合致していれば、日照などを知覚してまで、厳しく暦上の季節と体内時計をマッチさせる必要がないのではないか。逆に訪花性の種は花等の特定季節にしか利用できない資源に依存している。活動時期を間違えてしまうことが死に繋がるため、日照等により厳格に体内時計、即ち活動時期を管理するに至ったと考えられる。つまり訪花性のハナムグリは適切な羽化時期に加え、その羽化時期を知覚させる為の環境刺激、日照等が重要となると考えられる。

以下に各カテゴリの特徴を述べる。

まず体内時計や環境の影響が少ない種は、南方種、つまり与那国島やポリネシア由来であったり、花に依存しない、野外でも長期間活動しているといった種が多い。このような種は活動に適した気温であれば素直に羽化、繁殖に至る。

外的環境に左右されやすい種は、極端な高山に生息しており季節の制限を受けやすいミヤマオオのような種や、花に依存しがちな種が当てはまる。キョウトアオやオオシマアオに関しては花に依存する傾向は少ないものの、同亜属の南方亜種と比べるとやはり季節の制約を受けやすいものと思われる。

生来の体内時計のみで繁殖が成立する種はどちらにも当てはまらない種が殆どだ。オオハナムグリや大型rhomborinaに関しては活動に十分なの餌資源の量が確保される一定時期に活動時期を合わせている印象を受ける。一方、所謂普通種protaetia、餌資源や活動時期が広い種に関しては、体内時計はあるものの影響は小さく、外的環境により活動を制限されることも少ないように感じる。累代難易度が低い事も体内時計のような要因を加味する必要がない、つまり従来の飼育方法で完結するからではないだろうか。

実践的な飼育テクニックの解説に移る前に、室内飼育で羽化させたF0が産卵に至るにも関わらず、F1の繁殖においては環境刺激が必須となる理由を考える。以前、筆者の環境下では、オオシマアオハナムグリの飼育において「野外品が産む、f0が産むにも関わらずf1が産まない」といった事態が発生していた。今更説明するまでもないだろうが、F0という累代表記は幼虫採集品を指す。つまり、幼虫を持ち帰り室内という環境刺激を遮断される環境で羽化させた個体のことだ。対してF1の個体は産卵時から一貫して環境刺激を受けていない。羽化後に外的刺激を感知していないF0が産卵するのであれば、f1の内時計調整に日照が必要だ、という式が成り立たない。この矛盾を埋めるパーツとして、羽化時期さえ適切であれば(幼虫期間に適切な外気温を経験していたことで体内時計が適切に暦と同期していれば)成虫になってからも自律的に活動ができる=幼虫期間に適切な外気温を経験させられなかった場合、羽化後に日照や温度を調整して暦と同期させる必要があるといった仮説を考えた。無論本来野外では幼虫期間に摂ることのできていた栄養素が、飼育下において欠乏している可能性は否定できないが、我が家においては上記のように日照等を用いて問題なく産卵させることができている以上、この仮説はあながち間違っていないと言えるのではないか。


4.実践的な飼育方法

長ったらしい前置きや考察は以上で終わらせ実践的な飼育方法の解説に移ります。

1.従来の飼育では加味されていない「体内時計」という概念を飼育に取り入れる

2.体内時計は遺伝性のものを軸に温度変化や日照時間といった外的環境の刺激を受け、暦と同期される

3.ハナムグリは生息地や活動時期、食性により以下の3グループに大別され、各々注意すべき点が異なる。

・体内時計や環境刺激の影響を受けない=活動時期の制約を受けにくい種

・体内時計に加えて環境刺激による調整が必要になる種

・極力体内時計を意識すべき種

体内時計の影響が薄いに特段の対策は必要ないが、体内時計に加えて外的刺激による調整が必要になる種、極力体内時計を意識すべき種においては、飼育温度を幼虫の段階から外気温になるべく近づけることで、適切な時期に羽化させることを心がける。温度の緩急をつけて幼虫の体内時計を機能させれば成虫は適した時期に羽化してくる。羽化時期を誤ってしまった場合、室温での飼育等による早期羽化を誘発してしまった場合は冷蔵庫等の低温環境にて強制的に活動開始を抑えるといった処置が求められます。活動時期が近づけば、環境下刺激を必要とする種であれば徐々に外気温に慣らす、日照が当たるような場所に置くなどして、季節を近くできるような処置を取る。

5.外的刺激の与え方

つまるところ、上述した内容を要約すると「屋外で飼育をしましょう」ということになる。しかし、我々の多くは室内での飼育を基本としており、屋外での飼育はあまり現実的でないことも多い。また、低温で寝かせるとは即ち無理やり活動を抑制しているだけに過ぎない。寿命が短い種は半年以上の休眠ができない可能性もある。例えばの話野外であれば7月に産卵された個体が幼虫期間8ヶ月、休眠期間2ヶ月で5月から活動している場合、飼育下の高温で幼虫期間が5ヶ月に短縮、休眠期間が5ヶ月になってしまう。成虫寿命が5ヶ月以下であれば死んでしまう上、コンディションになんらかの悪影響を及ぼす可能性もある。このような事情から、悠長に「野外での活動時期に従いましょう」とは言っていられない。この問題を解決するためには環境刺激を用いて体内時計を操作する必要がある。

外的刺激は主に2種類、断続的な温度変化と日照時間の調整がある。前者においてはクワガタ飼育等でも当たり前の技術として普及しているので殊更の説明は省くが、後者の日照については具体的な説明を行わなければならないだろう。日照を必要とする理由は、日光を浴びた人間の体内で、ビタミンDが精製されるといったように、光から得られる成分を必要としているからではない。あくまで季節を知覚させることが目的であり、必要であるものは日が照っている時間の変化、つまり日長の変化だ。この日長の変化を、調整することが目的となる。

ちなみに光の種類に関して、ショウジョウバエやゴキブリ等の実験昆虫は無論、カツオブシムシなどハナムグリと比較的近い食性を持つ昆虫を用いた実験等では、室内灯でも十分影響を与えることが知られている。しかし、私自身がアオヒメハナムグリを被験体に室内灯を用いた複数通りの産卵セットを用意した結果として、特に違いを観察することはできなかった。日照の強さ等も関わって来るのかもしれない。無難を求めるのであれば、窓際など日光により明るさが伝わる場所に置けば良い。

日照時間の調整について具体的な手法は以下の通りだ。多くの種が、日照時間が長くなりつつある時期に活動を始める。これらの性質を利用し、例えば、夜12時間、昼12時間といった環境から、夜10時間昼14時間といった環境に、徐々に移し替える。例えば窓際に飼育ケースを置きカーテンを開け閉めする時間を調整したり、室内灯を用いる場合にも、電灯をつけておく時間を調整するだけで良い。また、昆虫は夜明けの早さよりも日没の遅さを重視しているため、例えば冬季に夏季を錯覚させるような場合には日没後も室内灯により擬似的に昼間を再現することが求められる。

繰り返し述べるが、最も理想的な飼育は暦の季節と本来の活動時期が重なっている場合に行う屋外飼育だ。屋外飼育ができない以上外的刺激を用いて極力野外環境に近づける必要がある。


総論

累代飼育の本質とは、あくまで全ての条件を野外環境に近づけることだと私は考える。採集を行っていると、従来の飼育で考慮されている側面がほんのごく一部であることがわかる。餌や温度等が加味されているのであれば「時間」や「日照」といった事象も加味すべきだ。



0.飼育屋の狭すぎる視点

ハナムグリの繁殖を手がけている人間は大抵の場合クワガタの繁殖を経験しているであろう。そして、一般的にクワガタの繁殖のスタートラインである「産卵」を行わせる条件として知られているものは、活動に至る外的温度、産卵に必要なエネルギー源、産卵を行うロケーション(産卵床)、そして個体の成熟と言ったものが挙げられる。一般的なハナムグリ飼育においてもこれらの条件は加味されている。むしろ、これらの条件しか検討されていないのが現状であり、試行錯誤といえども精々飼料や産卵床に何か混ぜ込んだりといった程度で、ハナムグリにおいてこれらの条件を整えることは非常に簡単だ。ハナムグリは産卵床の嗜好も幼虫の食性も非常に幅広いし、適温の幅も広い。体自体の成熟も(こちらはあまり加味されていないように思えるが)短期間で済む。そのため一般的に「ハナムグリの産卵、繁殖は簡単である」との印象が大きい。しかし、これは野外品や一部の強靭なProtaetiaのような種に限った話であって、現状われわれハナムグリブリーダーが直面している問題は一部種における累代品の産卵にある。一方でクワガタにおいても野外品の産卵が容易であるにも関わらず、累代を維持することが難しいとされる種類は少なくない。これには、例えばシカクワガタの仲間などが挙げられる。これらの累代難関種失敗の言い訳に、世のブリーダーたちはしばしば「累代障害」「オスが種無しだった」「メスが悪かった」という、問題を挙げ、自らの飼育技術を省みようとしない傾向にある。失敗の要因を対処できない問題に押しつけ、諦めてしまうことは楽だが、このような姿勢で進歩は望めない。本記事では上記のようなブラックボックス的失敗の背景に存在すると思われる「体内時計」について触れる。とは言ったものの、一部の腕利きブリーダーは既に加味している条件なのではないか。勿論国産ハナムグリに限り、累代飼育を完遂させるためには既存の飼育で加味されている条件の他に体内時計を加味する必要があるし、そして一部の種では加えて「日照」といった条件を加味することが予測できる。体内時計と日照、双方の条件は密接に絡み合っており、可能であれば本記事にて一度に触れてしまいたいのだが、些か長くなりすぎるため本記事では前者の体内時計の仕組みの概説に留まってしまう。次回の記事にて、日照との関連性、そして両者の側面から考えるハナムグリの飼育の実用的な手法を紹介するものとする。


1.休眠期間成熟期間

本記事の目標は、温度や産卵床、生体のコンディションが良好な筈なのに、産卵に至らないといった状態の原因を明らかにすることだ。往々にして、このような状態は野外個体には起こらない。ほとんどが飼育個体(累代個体)に起こる現象だ。野外品の産卵が容易であるのにもかかわらず、飼育品の産卵が難しいとされている種の飼育に、特異な条件とは何であろうか。このような状態の顕著な例としてクワガタ屋にも分かり易いシカクワガタを取り上げたいと思う。私自身、シカクワガタの累代飼育を行った経験が少ないため不確実な情報を含んでしまう恐れもあるが、彼らを産卵させるに重要な条件は「羽化後にしっかり寝かせ、特定の時期に産卵セットを組むこと」だと考えている。繰り返しにはなるが、私自身の経験が少ないこと、物事には例外が存在すること(例外の説明事項も後述)を前提に読み進めていただきたい。

上記のような書き方をすると「要するに成熟期間でしょ?」といった誤解をされかねないが、以降説明する通り、成熟期間の定義についても見直す必要があると私は考えている。おそらく世間一般では、休眠期間=成熟期間といったような捉え方が主流だろう。体の成熟とは内臓や生殖器官が出来上がることを指し、成熟が済んだ状態の虫は自ら活発に動き回り、採食を行う。裏を返せば、温度などの活動条件が満たされている上で、それでも自ら活発に動こうとしない個体は「成熟が済んでおらず、体が完成されていない」といった状態に捉えられても仕方がない。本記事で私が言及する「休眠期間」には2つの段階がある。「体の成熟を成す為の期間」と「野外における適切な活動時期までの期間」だ。繁殖において成熟の為の期間が必要であることは言うまでもない。が、適切な活動時期という要素は見落とされがちだ。中には後者の段階など存在し得ないと言う飼育者も存在する。しかし、休眠期間=成熟期間と捉えてしまうと、二つの疑問が湧き上がる。まず羽化してから成熟までの期間が長期に渡る、生存戦略上のメリットがあるのか、という点だ。そもそも自然界において、身動きも取れず、体が完成されていない無防備な状態を長期間続けるメリットは殆どない。そのような状態で体を完成させるのであれば、比較的身動きの取れる幼虫期間に体組織を作ってしまえば良い。加えて、同種間で体組織が完成に至るまでの期間が異なるのかという点にも疑問が残る。野外であれば気温差からくる体細胞分裂速度の違い等により説明ができるものの、飼育環境のように、気温が一定である飼育環境においてすら、活動までの期間が羽化時期により異なるケースは少なくない。同条件において個体間の細胞分裂速度が全く同じであるとはいえないが、数ヶ月単位での差異が産まれるとは考え難い。このことから、「休眠期間」のうちには「体を作る成熟期間」と「体を作り終わった上でそれでも寝ている期間」が含まれていることが予想できる。

具体的に野外品の産卵難易度と累代品の産卵難易度がかけ離れている種といえばオーベルチュールクロツヤニセシカ(以下オーベル)が有名だろう。筆者は本種のwf3以降の個体が販売されている様子を見たことがない。かく言う私もブリードに挑戦したことがある。勿論累代はロクに続かなかったが、幸いにも産卵に関しては複数回経験することができた。時系列が前後するが、まず20201月に羽化したwf1の個体を購入し、同年6月に30個ほどの有精卵を採卵した経験を取り上げる。この結果を見れば、本種は6ヶ月ほどの休眠期間で十分に産卵が可能であることがわかる。また、20187月頃に野外品を購入し、20個程の卵を得たこともある。これらの子孫は、翌年20199月に羽化し、そのうちほとんどの個体が翌年7月頃まで10ヶ月もの間休眠を継続しその後野外品と同程度個数の有精卵を産卵するに至った。要するに、9月に羽化した個体は産卵に至る為、本来必要とする6ヶ月程度の成熟期間とは別に、4ヶ月程度の休眠期間を要していたことが窺える。一方で、僅かではあるが2月に活動を開始した個体も存在し、これらの個体は産卵に至ることなく死亡した。ちなみに、これら一連の飼育に関して温度は常に23度をキープしている。

次に、スペキオススシカ(以下スペキシカ)について取り上げる。こちらも、1月に羽化した個体を購入、セットした際は、その年の7月に有精卵を採卵した。しかし、これらの子孫が翌年8月に羽化した際、23度一定の環境で管理していたところ、1月頃には動き出し、産卵に至ることなく死亡してしまった。また、スペキシカのブリードに熟達していらっしゃる方よりお話を伺った際、以下のような情報が得られた

・飼育環境は22度一定

24月羽化個体は数頭89月に動き少し餌を食べるものの、殆どが4月まで寝る

911月羽化個体は4月くらいに動く個体と7月位まで寝る個体の2パターンに別れ、これらの個体は産卵する

私自身の飼育経験、並びに911月羽化の個体が4月に産卵を行っているという証言から、本種は体成熟を6ヶ月前後の期間で完了させることができることが伺える。にも関わらず、24月に羽化して8月に活動する個体や8月に羽化して1月に活動する個体が産卵に至らない、という点は些か不思議だ。 

つまり、上記のデータのみを観察している以上両種にはある程度決まった期間に産卵を行いやすい性質があると予測できる。オーベルシカであれば、69月前後、スペキシカであれば49月前後といったところだろうか。勿論、1月にスペキシカを採卵しているという事例は少なからず散見されるため、必ずしもこの法則が当てはまる訳ではないが、これらの例外に関しても後程説明を行う。

本種の生息する現地の気候を考えれば産卵の季節がある程度決まっていることも頷ける。オーベルシカの生息するハザンでは、平均気温グラフ、並びに降水量グラフが概ね山型を描いており、特に飼育下で繁殖に至り易い6.7.8月は顕著な雨季となっている。タイのチェンマイ周辺では、日本やハザンほど顕著な四季は存在しないものの、平均気温のピークは5月となっており、4月下旬〜10月にかけて雨季の様相を呈している。つまり、両種とも概ね雨季に合わせて繁殖、活動をしていることがわかる。注目すべきは、乾季雨季の差異や気温の顕著な変化が存在しない室内という環境においてすら、繁殖の時期が制限されているという点だ。このことから推測するに、彼らの体内には環境に左右されない、されにくい体内時計が存在することが伺える。以上をまとめると、シカクワガタは「体の成熟を待つための期間」と「体内時計に従い特定の季節を待つための期間」を、休眠期間として設けていると言えそうだ。


2.体内時計の存在

上述したシカクワガタのように、温度等の外的条件が整っているにもかかわらず、特定の季節にのみ産卵のような特定の行動をとる昆虫は少なくない。シカクワガタの他にも、適切な気温を保っている飼育環境下において飼育対象が体の成熟を完了させ餌を盛んに食べているにもかかわらず、産卵に至らないといった事例は読者諸兄も経験したことがあるのではないか。ハナムグリにおいても同様のことが言え、例えばムラサキツヤハナムグリの場合、初夏に羽化した個体は1ヶ月もすれば成熟を完了させ産卵に至るにも関わらず、秋に羽化した個体はいくら加温しても翌年まで産卵に至ることはない。体成熟自体は1ヶ月程度で済むにも関わらず、産卵までの期間が半年以上にも渡るのだ。このように、昆虫の繁殖や活動を特定の時期に制限する環境要因以外の、いわば昆虫自身に起因する要因を、本稿では「体内時計」と呼称する。

このような体内時計の存在意義に関しては後ほど詳しく触れるが、例えば活動しやすい気候、餌資源が豊富、天敵が少ないといった時期に活動時期を合わせるように進化してきた結果の産物といえる。先に述べたシカクワガタの産卵時期が現地の「雨季」前後に纏まっていることもわかりやすい例だろう。

ハナムグリにおいても、体内時計が備わっている種の繁殖にはシカクワガタと同じく「体の成熟」の他に「野外での活動時期に産卵セットを組む」ことが重要と言え、筆者の飼育下ではカレンダー上の暦と体内時計を同期させることを重視することで累代を成功するせるに至った種も少なくない。早い話が、野外における本来の産卵時期まで待てば良いのだが、寿命の短い種類であればそうもいかない。このような種に対しては「体内時計を狂わせる」といった手法が有効打となりうるが、これらの手法を理解するためには体内時計に関する理解が不可欠だ。加えてここまで読み進めた中で「我が家では冬でもシカクワ産卵させてるんだが?笑」「俺はあの有名な〇〇さんと知り合いで、その〇〇さんが冬に〜を産ませたと言っていた!」などといった反論材料をぶち撒けるタイミングを、今か今かと待ち侘びてる読者も少なくないと思われるため、やはりこの体内時計の仕組みについて詳しく解説する必要がある。次章では昆虫の体内時計に関する詳しい解説だ。


3.体内時計の構成要素

昆虫体内時計研究に関しては未だ判明していない点が多く、本記事も推測的要素を多分に含むことを予めお断りしておかねばならない。また本記事における概日概年リズムと遺伝性体内時計の特性、外的刺激と体内時計の関係性、臨界日長の概念などは、「『昆虫の時計』、沼田英治著、北隆館、2014」を参考に、筆者の野外や飼育下における観察情報を交え解説を行なっている。

昆虫は体内に遺伝として刻まれている体内時計を基軸に、連続的な温度変化や日照時間といった環境刺激を加味し、季節的な、あるいは時間的な行動を制限している。つまり、生来的な体内時計に基づき休眠を行なっているシカクワガタでも、連続的な温度の緩急をつけ、加温を続けるなどの環境刺激を与えれば動き出すケースが存在するというワケだ。加えて、生来的に体内時計の影響が希薄な種や個体も存在する。そのような個体は環境刺激に対する感受性が高くむしろ環境刺激に依存して行動を制限している。裏を返せば環境刺激を用いて体内時計を調整することも可能であるといえる。勿論、全ての個体が環境刺激の影響をモロに受ける訳でもないし、かといって体内時計に全く左右される訳でもない。極端な白黒思考は避けるべきだ。

また、体内時計には概日リズム概年リズムが存在する前者は夜行性昼行性といった生活サイクルや、変態の時間などを左右し、後者は繁殖や越冬の時期を決めており、特に本記事では概念リズムの理解が重要となる。概年リズムが機能している例としてリュウキュウコクワガタの生態を挙げてみよう。本種の生息地である沖縄本島は年間を通じて昆虫類が活動するに十分な気温を保っており、平均気温が最も低くなる12月ですら16度前後を保っている。本種も例に漏れず飼育下においては16度程度の気温があれば、容易に摂食や活動を行う。しかしながら、本種は冬季には活動しない。ちょっと待て、幼虫期間が一定であるために毎年夏場に成虫が羽化しているだけではないか、という反論も予測できるが、リュウキュウコクワガタが成虫状態で数年生存可能である旨を考慮すると辻褄が合わない。つまり、彼らは気温等の環境条件が整っていようとも季節が冬であることを体内時計により知覚し、越冬を行っている。

実際に、冬季に発生木を割り採集した個体を室内で加温しても、活動に至ることはなかった。

そして、先程も述べたように、体内時計は適した時期に虫自身が適した行動を取る指標として機能している。世界規模でクワガタの繁殖を例に考えてみよう。例えば赤道付近は概ね四季が存在せず、年中活動が可能だ。そのため付近に生息する昆虫は繁殖や越冬の時期を定める必要がない。したがって遺伝性体内時計も存在しない、もしくは影響が薄いのではないだろうか。例えばインドネシアのクワガタなどは、どの時期にセットされても産卵することが多い。逆に、季節により気温や乾湿が変わる国、例えば日本などの緯度の高い地に生息する種は、殆どの場合繁殖や越冬の時期が特定の季節に限定されている。勿論日本の冬は恒温動物である人間ですら活動を躊躇う程に寒い。ましてや昆虫が強制的に活動を制限され、越冬状態に入ってしまうのも頷けるが、同じ現象は暖かい室内においても発生する。例えばコクワガタなどは春〜初夏に羽化すればその夏には活動、産卵を行う。したがって、体の成熟は2.3ヶ月で済むはずだ。しかしながら秋冬に羽化した個体は適温下で数ヶ月放置しようとも、産卵に至るケースは少ない。むしろ餌の消費もほとんどなく、いわゆる越冬体制に入ってしまう。これは遺伝性体内時計が機能しているからだ。

これらの遺伝性体内時計には「温度補償性」という特性があり、急激な温度変化に対しては反応しないという特徴を持つ。仮に彼等が遺伝性体内時計を持たず、越冬の時期が一時的な温度変化のような環境刺激にのみ左右されるものとする。温度というものは非常に安定しない指標だ。天気が曇り続きであれば温度は下がるし、反対に季節外れに暖かくなる日も存在する。越冬中、暖かい日が続いたとする。そのような折に反応し、活動を始めてしまった場合、再び温度が下がればたちまち死んでしまうだろう。一方で、遺伝性体内時計が機能してさえいれば、上記のように特例的な環境刺激に左右され生存が脅かされてしまうこともない。あくまで、体内時計を基軸に環境変化を知覚し、活動を制限していると言えそうだ。そのため、連続的ではない一時的な加温等では、幾ら温度を上げようとも、活動に至らないことが多い。反対に、連続的な加温を続ければ産卵に至ることがある。これは先にも述べた通り、遺伝性の体内時計の作用が希薄だった、あるいは環境刺激に影響を受けた事例として説明ができる。

結局は温度管理じゃないか!と言った声も聞こえてきそうだが、活動に最適な適温が保たれているから産卵を行うのではなく、気温という外的条件から活動に適した季節である旨を知覚することが産卵の成功に繋がることはご理解いただけるだろうか。

逆に、温度変化のみでは季節の変化を知覚させにくく(不可能ではない)産卵促進効果が低い種がいる。これらの種が昼行性の昆虫、つまりハナムグリだ。結論から言えば、ハナムグリの繁殖には日照時間が大きな影響を及ぼしているようだ。対照的にクワガタは夜行性であり、日中は土中等で休んでいる他、地中の幼虫等は多少の明暗差は知覚できても、昼行性の昆虫と同程度に日照時間のような温度以外の指標を知覚することはできない。そのため比較的温度の影響を直に受けやすくなっていると考えれば辻褄が合う。事実、オーベルシカのように安易に加温しても産まない種は昼行性を匂わせるような情報が散見されており、日照時間により繁殖の時期を制限している可能性も十二分にありうる。

他種においても、ただ加温を続けても活動を開始しないことが多いものの、徐々に温度を変化させることで活動に至るケースは存在する。一時的ではなく、あくまで連続的な温度調整を用いることで幼虫期間の調整、および大型化といった飼育方法が成立するのではないだろうか。

以上が体内時計の基本的な仕組みだ。整理も兼ねてこれまでの内容を以下のような形で纏めることとする。


・昆虫の繁殖や越冬、変態の時期は、体内時計における概年リズムにより決まっている

・体内時計は遺伝性のものを基軸に環境刺激に影響を受ける

・遺伝性体内時計の影響が希薄、あるいは環境刺激の影響を非常に受けやすい種や個体が存在する

・体内時計は連続的な温度変化や、日照時間の影響を受ける。


4.体内時計を無視した際に起こる弊害

本ブログの主題であるハナムグリ飼育に関する記述は一旦締め、本記事では特別にクワガタ飼育を視座に置き、論を進めようと思う。

唐突だが、クワガタ飼育における繁殖の成功とはどの程度のものを指すのだろうか。一般的には累代を保持できる程度に採卵できれば成功と言えるだろうか。クワガタ自身が本来産卵するはずのない季節に無理矢理加温して、1桁でも採卵できれば成功だ。

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成功ではあるが、例え産卵に至ろうとも、適切な形で累代が回っていないことは明白だ。時には産卵数が確保できない、無精卵や空砲が連発してしまうかもしれない。

このような事態をブリーダー達はやれ「累代障害だ」「メスが悪い雄が悪い」と、虫の責任にしてきた。体内時計という条件は、この無責任な風潮を壊しうる可能性を秘めている。累代障害という角度から切り込んでみよう。

インブリードに弱い種の定義として活動範囲が広く、染色体交換が活発に行われるといったものが挙げられる。たしかにインブリードにより虚弱形質が発現してしまうことは世に広く認知されている科学的事実だ。しかし、メタリフェルのようによく飛翔する、活動範囲が広い種でさえ、累代は2桁以上続いているのだ。このことを加味すると、本来累代障害とは少なくともf3.4程度で頻発する問題ではないように感じる。

概して累代障害を叫ばれる種、例えばニセシカや大陸フタマタのような種は、緯度が高い地域に住んでいる。つまり、体内時計の影響ぎ強く作用している可能性が高い。逆に累代障害に強いメタリフェルはどの亜種も四季の変化が少ない赤道付近に生息しており、繁殖のシーズンを選ぶ必要がない。つまり体内時計の調整が不必要だ。体内時計という要因を加味せずとも容易に累代が続いてきたのだろう。また、マンディブラリスやツツイシカのように赤道付近に住む種は冬でも多産するし、生息域が赤道に近いフォルスターキヨタミの産卵は簡単とされている一方で、より緯度の高い地域に住むニシは産卵数が少ないとされている。これら全て、体内時計の存在によりパーツが埋まるのではないだろうか。

冒頭にも述べたが、クワガタ飼育においても体内時計を加味する飼育は未だ一般的とは言い難い。特に温度を上げ下げすれば昆虫の活動は制限できる、といった信仰が蔓延している。勿論制限はできるのだが、それが虫自身に良い影響を及ぼしているかはまた別の話だ。

野外で6月に繁殖を行い、1年半の幼虫期間を経て12月ごろ羽化し、6ヶ月程度の休眠期間を経て繁殖に至る種がいるとする。このような種を高温で飼育すれば、おそらく幼虫期間は1年前後になるだろう。そうなれば、羽化時期は6月ごろ、休眠期間は1年に及ぶ。本来6ヶ月の休眠期間で卵巣を成熟させる種が1年間も卵巣を成熟させたらどうなるだろつか。ともすれば成熟されすぎて腐ってしまうのではないか。

他にも温度を無理矢理下げて休眠をさせるやり方などは虫自身に好ましいと言い難い。国産ノコギリクワガタは冬季に25度前後まで加温しても越冬体制を解くことはない。つまり温度が活動に適していても体内時計により越冬体制を保持しているのだ。一方、低温で休眠させていたクワガタを常温下に置いていたら起きてしまった、といった事例が存在する。温度補償性を加味しつつこの状況を分析すると、クワガタ自身の体内時計は活動を促していたのに、低温で無理やり活動を鈍らせていたに過ぎない。果たしてこのように不自然な飼育方法が虫自身に良い影響をもたらすだろうか。

現状、クワガタ飼育においては殆どが既存のやり方で成り立っているため、新しい視点を検討する必要がない。私は偶然ハナムグリ飼育という未知の領域に手を出したため、クワガタ飼育にこのような視点を持ち帰ることができた。今は外国産クワガタ飼育にリソースを割く余裕と熱意が欠けているが、ゆくゆくはこれらの知見を用いてクワガタ飼育でも結果を収めたいと考えている。そして、読者の皆様方もさらなる技術の向上を求めるのであれば既存のやり方を疑ってみるのも一つの手ではないだろうか。


今回の記事は特に飼育に役立つ情報はありません。筆者の自己満足で累代障害に対する私見を述べています。
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0.前置き(長いので飛ばしてもOK)

「コロナウィルスは国際刑法7条、平和及び人道に対する罪に違反する」「今回の実験的なワクチン接種はこれらの国際刑法に違反する。ワクチンを勧めた医療機関にはニュルンベルク裁判にて死刑判決がくだされる」先日このようなトンデモ話が耳に飛び込んできた。当初は新手のミームかなにかと考えたものの、Twitter検索をしてみれば2021年の世にも関わらず三四半世紀も前に取り沙汰にされたであろうニュルンベルク綱領の話で溢れかえっているではないか。友人が仮にこのようなことを口にしたとて、5G電波で思考盗聴をされているとアルミホイルを被り出した方がまだ救いようがある。このようなホラ話を、デジタルネイティブ世代の我々は信じるはずもない。

悪魔の証明という話がある。悪魔は存在するか否かという議題について、悪魔の存在を証明するには悪魔を発見すればよい。しかし悪魔が存在しないことを証明するには全宇宙をくまなく捜索しなければならない。理論上は証明可能であるが実際は不可能であるという消極的事実の証明困難性を示す逸話だ。

コロナウィルスの流行やワクチン接種は、世の支配層が画策した人口削減計画の一端である、という陰謀論が存在する。勿論われわれはこれらの御伽噺を聞いたとて、特段深く考えもせず一笑に付してしまう。しかし、40年後に平均寿命が縮んでいないという証明や、子の代孫の代でなんらかの身体異常が出ないことの証明を、我々のような素人がどうしてできようか。ワクチンの有害性が全く存在しないと断言することは不可能に近いと言える。

ではワクチンの有害性や21世紀のニュルンベルク裁判といったホラ話を我々が「ありえない馬鹿げた話だ」と判断できる根拠は何処に存在するのか。それは「皆がそのように言っているから」に尽きるのではないか。この点で我々は、自らが情報リテラシーに長けていると信じつつも、実際は陰謀論を信じる人々となんら大差ないマヌケな人種であることがうかがえる。何故なら陰謀論を信じる人々も我々と同じく「周りの人間が陰謀論を信じているから」という理由で目の前の情報を正しいと決めつけてしまうからだ。

断っておくが、私は既にワクチンを接種済みだし頭にアルミホイルを巻いてトランプ元大統領と共に世界中の児童売春団体と戦ったりはしない。ここまでの長い前置きでお伝えしておきたかったことは「情報を自らの目で検証せずに、周囲の判断基準に流されるがまま信じ込む姿勢はいかがなものなのか」ということだ。

1.昆虫界の陰謀論

近頃まことしやかに囁かれている説がある。
「累代障害、専門店の販売戦略説」 
今回冒頭で陰謀論といった胡散臭いお話や、悪魔の証明という厨二チックかつペダンティックな話題を取り上げたのは他でもなく、累代障害について深く考えるためだ。一説によると累代障害とは専門店が野外品を買わせるための戦略的ミームだという噂がある。果たして累代障害は本当に存在するのだろうか、周りが遺伝などと小難しい話をしているばかりに、自分も物知り顔で、陰謀論を信じる人々が如く目の前の情報を鵜呑みにしてしまっているのではないか。

1-1 累代障害という安息地

専門店や有名ブリーダーが「累代障害」という概念を唱えれば我々のような素人は信じざるを得ない。実際、飼育に失敗した際、累代以外の要因が思い浮かばないこともある。しかし安易に累代の一言に逃げ込んで良いのか、ファンタジーめいた原因に、自らの失敗をなすりつけ、理解する努力を怠って良いのだろうか。弱点を見つけ喉元に噛み付いてこそではないか!それが出来ずして何がブリーダーだと。これが今回の出発点だ。とは言ったものの、結論として現時点で累代障害の有無は証明不可能である。アフィブログのような構成を防ぐため、せめて累代が進むと失敗が確定する、という脳死状態の脱却を目標に以下論を進める。

私は累代について以下のように考えている
遺伝病に罹りやすい遺伝子は少なからず存在する。生物種によって遺伝病に弱い遺伝子を持つ個体の割合は異なる。ハナムグリはこの割合が多いが、決して全ての個体が遺伝病に対して致命的に弱いわけではない。現在ハナムグリ飼育に重要な要素は全て解明されていないことから遺伝病と思われる異常発生の何割かは飼育者の技術不足に起因する可能性が高い。「遺伝病に弱いから」とレッテルを貼り、飼育技術の向上を怠ることこそが最も避けなければならない問題である。

さて、ハナムグリ類は累代障害に非常に弱いと言われている。食性が強いシラホシハナムグリやタイワンシラホシハナムグリでさえf5前後で落ちる個体が増えるほか、カナブン属に至ってはf3以降の累代を聞いたことがない。そのため
累代が進む=絶望的な死といった脳死説が定着しているようだ。

ところで何故ハナムグリが累代に弱いといった説が広まったのであろうか。この度もクワガタムシと対比して考える。累代に強いクワガタムシの例としてネブトクワガタやマルバネクワガタ、ドルクス類が挙げられる。言わば羽化して後食したのちもあまり動かない種類だ。
対して累代に弱い種の代表例にホソアカクワガタやランプリマ類が挙げられる。これらの種類は飛翔性が強く、行動範囲が広い。このことから、移動範囲が狭い虫→累代に強い、移動範囲が広い虫→累代に弱いといった前提条件が導き出せる。当然ハナムグリは飛翔性が非常に強いことから累代に弱いことがうかがえる。
しかし、上記の前提にはいくつか反例が存在する。飛翔性の強いはずのメタリフェルホソアカは確かF13以上の累代個体が存在しているし(ソースが見つからず申し訳ない)現に出回っているパープル系統などは単一の出本からかなり近親交配を繰り返していると思われる。一部のミヤマブリーダーは長年野外品が入荷されていない種でもインブリを維持しているケースも少なくない。オーベルチュールニセシカなど、f1以降で途絶えると言われている種も、野外であれば同一の発生源から発生し、同一の樹液木で交配を行うことで野生下WF1の発生は十分考えられる。知見に乏しく具体的な反例を複数用意できないことが悔やまれるが、兎にも角にも種により累代耐性が画一的に固定されているとは言えなさそうだ。

1-2飼育者の落ち度

しかし現に累代が進めば進むほど、なんらかの障害が発生していることは事実である。これが遺伝病によるものかは断定不可能だ。何故ならハナムグリ飼育において、累代以外の落ち度を全て完璧にクリアしているブリーダーは恐らく存在しないからだ。専門家に頼んで遺伝病検査をしてもらうなどではなく、あくまでアマチュア趣味の延長として累代障害を発見するには累代障害以外の要因が「全て」存在しないことを証明した上で、繁殖に失敗しなければならない。しかし現にハナムグリどころかクワガタでさえも飼育における全ての要素を因数分解できていない以上、累代障害の存在断定は実質不可能と言える。そこで累代障害と混同されがちな飼育における改善すべき問題を幾つか挙げていくこととする。

1.体内時計
先の記事でも取り上げた問題だ。飼育下では室内で飼育することが多い。そのため外気温の変化により正常に機能していた体内時計が壊れ、羽化はするものの繁殖のスイッチが入らないまま寿命を迎えるケース。対策としては屋外飼育や冷蔵庫等を使用した人工的な四季の再現が挙げられる。

2.自力ハッチの失敗
自力ハッチ前に繭玉を割ることで、消化器官が正常に機能しないまま活動に至るケース。餌は食べるので消化不良で死亡する。もしくは消化できずエネルギー切れを起こして飢え死に。
生殖器官ができあがらないまま交接に至り死亡するなど。対策としては繭を割らない、割ってしまった場合は低温下で無理やり活動を阻止するなど。

3.栄養過多による羽化不全
幼虫時代の栄養過多により羽化後なんらかの支障をきたすケース。累代が進むほど、同一の飼料でも分解能力が上がる(所謂エサ慣れ)するのではないか。

4.産卵床や温度帯
単純に実力不足

5.ミネラル欠如(根拠無し)
ミネラルをはじめとした、クワガタ用飼料のみでは補えない養分の欠如。海浜性の種など。

以上のような原因が挙げられるのではなかろうか。それでも解決しない場合、現時点では遺伝病以外の要因を考えることはできない。そのためなんらかの対策が必要だ。

1-3 それでも避けたい遺伝病

そもそも生物が種により、遺伝病耐性が別れたのは何故なのか、自然選択説を取り上げて考えてみよう。
1.生物の個体には、同じ種に属していても、さまざまな変異が見られる。
2.そのような変異の中には、親から子へ伝えられるものがある。
3.変異の中には、自身の生存確率や次世代に残せる子の数に差を与えるものがある。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/自然選択説より(ソースがwikiなのはスルーでお願いします)

つまり進化とは、様々な特徴をもった個体の中から、生存にたまたま有利だった特定の遺伝子を持つ個体群のみが生存競争に生き残る。この淘汰と残存を繰り返すうちに特定の遺伝子が種としての特徴に昇華するといった現象だ。

マルバネクワガタを例に取ってみる。
1.大木のウロフレークを食べて育つ種がいた。
2.初期の状態には種の中でも近親交配に強い遺 伝子と弱い遺伝子が満遍なく存在した。
3.大木のウロという繰り返し使用する狭い環境の中では偶然近親交配が進んでしまった
4.結果的に近親交配に強い遺伝が生き残り、種としての特徴として固定されてしまった。
上記のような流れであれば、分化が古い種では淘汰が進み、種としての特徴が「遺伝病に弱い」「遺伝病に強い」と固定されてしまっているだろう。しかし、種によっては未だ特徴が固定されていない可能性もある。そのためにメタリフェルのように、種としては遺伝病に弱い遺伝子を持つ個体が多いものの、遺伝病に強い遺伝子を持つ個体群も少なからず存在する、といった事例が現れるのであろう。ハナムグリにも同じことが言えるのではなかろうか。恐らく遺伝病に強い遺伝子はどこかに存在する。前節で考察した累代維持の方法を実践すると共に、アタリ遺伝子を引き当てることが現在できる最善の対処法かもしれない。

総括

結局、正しい飼育方法とアタリ個体を引きましょうという陳腐な結論になってしまうが、今回の目的はあくまで「累代障害という正体不明の楽な言い訳に逃げることを防ぐ」所にある。挙げただけでも累代障害と混同されていそうな失敗要因は5つあった。累代障害が存在するならするで良し、しかし1%でも他の失敗要因が予想される以上、既存の情報に囚われることなく常に探求を続ける姿勢が求められるのではないか。

余談

今回は冒頭で、情報の正誤を周囲の基準を用いて判断することの愚かさや危険性に触れた。昆虫業界を見ていると常々主体性に欠けたイエスマンが多いと感じる。彼らの常識とは即ち声が大きい人間の常識だ。千人のフォロワーを持つYouTuberブリーダーが、羽化直後のトカラコクワを真紅血統と言えばそれはWF1とて血統なのだ。(手頃な事例が思い浮かばないので具体例は割愛するが、上記のようなイエスマンを馬鹿にしている連中ですら例外ではない)


昆虫業界には、承認欲求にかられ「バズ」を狙う為に、耳触りが良く「マス受け」する意見を集中的に発信する人々や、声の大きい人間に取り入るべく、コピーアンドペーストに過ぎない意見をさも自らの主張のように声高々に発信する中高生など、実に様々な人種が存在する。とにかく人と同じ意見を言わないと気が済まない連中とでも言えようか。つまり大概のお気持ち表明は共感を得るツールに成り下がってしまっていると言える。勿論SNSの使用方法などそんなものであろうが、少なくとも彼らが顔を真っ赤にしながら驚くべき速さのフリックで打ち込んだ「意見」とは、他者の共感を得るための材料でしかなく、それ以上でも以下でもない。

虫屋の間でよく議論される問題としてソーラーパネルの設置による環境破壊が挙げられる。これらの問題に対して彼らは往々にして不満の声を上げるものの、彼ら自身が具体的な行動を起こすことは殆どない。ソーラーパネルを作る会社が憎いのであれば、環境コンサルの仕事に就くなりゼネコンやエネルギー会社に入社して内側から会社を変えるもよし、行政を志す手もあるはずだ。しかし彼らはSNS上で義憤の声を上げるフリをして「いいね」を飛ばし合い、満足してしまう。SNSを開いたまま携帯を握りしめ翌日目覚めた頃には、壊されゆく自然環境に住まう、野生動物に対しての憐憫感情は綺麗さっぱり抜け落ち、学校や職場、現実社会に対する愚痴を書き込んでいることだろう。つまるところ、彼らの目的は諸問題の解決ではなく、不満を訴えることで人々と繋がること、自らの承認欲求を満たすことだ。

共感を得るための材料として発信された、用途の決まっている陳腐な意見をいくら取り入れたところで、建設的な進展はなしえない。私は決して逆張りをしろだとか、常に他人と違う存在であるべきだと言った主張をしているわけではない。なぜなら他人と違う存在を志す人間は、他人との関係の中でしか自分を定義できない点で、他人と同じことしか言わない人種と全くの同列であるからだ。

私が真に伝えたいことは、巷に溢れている主張や情報の価値を、自らの頭で熟考し、自らや自らが属する共同体の糧とする姿勢の重要性だ。兎にも角にも、皆が同じ意見を盲目的に信じていては技術の進歩や既存課題の解決はありえない。ギネスブリーダーの飼育方法を盲信し、実践したとてギネスブリーダー以上の成果は出ない。常に既存の価値観を疑い自らの目で情報の取捨選択を行い、取り入れた情報をもとに、時には自ら新しい情報を作り出すことが重要だと私は考える。

私の昆虫趣味とは自らの価値感アップデートに他ならない。そのためにクワガタ類に人気で劣っていたとて、未開拓のフィールドが無限に広がっているハナムグリ類の生態や飼育方法の解明に惹かれているのだ。自らが仕入れた情報を繰り返し検討すると共に、自らの足で現地を調査し、繁殖を試み、新しい理論を構築する。そうすることにより自らの凝り固まった思考すら解されていく錯覚に陥る。安易な意見のコピペで得られる浅薄な同意ではなく、上記のような快感を共有できる仲間が増えることを祈っている。


飼育考察応用編の〆は「砂」つまり限りなく無機物に近いものの活用方法だ。現在でも砂はゴライアス等の外国産大型種の蛹化時に使われているが、他にも様々な使い方ができる。

1.繭玉形成

勿論国産種における繭玉作成にも有効だ。繭玉形成に砂を用いるメリットは主に二つある。一つは通気性や湿度の調整、二つは物理的耐久性の確保だ。前者に関して、蛹化時に用土が湿っている際にも赤玉土などを混ぜてやれば乾燥気味に調整が可能だ。また、通気性の確保にも繋がり不全率の低下が見込まれる。後者は言うまでもないが、特にしまったままだと繭玉は崩れやすい。野外でもしばしば砂や土を用いて堅固な繭玉を作る種が多い。

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2.幼虫飼育と糞の形

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画像は野生下におけるキョウトアオハナムグリの糞だ。不明瞭な画像で面目ないが、まるで玉石や碁のようにツヤを帯びていることがわかるのではないだろうか。土壌性の本種やクロカナブンやアオカナブン、カバイロハナムグリはこのような糞をする。そしてこのような糞はクワガタ用資料や腐葉土のみでは形成されない。野外の環境に近づけることが健康を保つ最良手段であるならば、このように砂を混ぜた方が良い結果に働くことは想像に容易い。

3.産卵床に混ぜる

上記の画像を見てもらえればわかる通り、砂混じりの環境で育つ種は多い。そのような種は産卵が難関であるとされていることが多い。産卵報告も「腐葉土を使ったらいつのまにか産んでいた」といったような適当具合だ。彼らのほとんどは黒土や赤玉土、そして砂を混ぜてやれば容易に産卵する。また、分解力が弱い初令の飼料としても有効に働く。

4.ミネラル分の補給

野外にあって飼育下に足りないもの、それはミネラル分だ。木質のみを処理した市販のクワガタマットでは足りない成分も出てこよう。あくまで推測の域を出ないが、それらを補う手段としても有効と思われる。特に海浜性の種においてはうまく活用したいところだ。

ハナムグリ=ばら撒き産卵的な先入観を壊したいがために市議会か何かに立候補しようかな。今回は給餌についても少しだけ触れます。

前回は休眠や成熟に触れた。一般的な読者の関心は恐らく産卵セットの組み方、特に使用する用土にあるのではないか。私は意地が悪いので具体的な銘柄についての記事は一貫して作成しない。今回は産卵セットの組み方を解説する。

1.用土の詰め方と卵座

意外に思われるかもしれないが、彼らは一律でばら撒き産卵を行うわけではない。カナブン属や訪花性のハナムグリはばら撒き産卵が多く、そのような種は卵の外皮も丈夫で大型、かつ土が付着しており見つけ辛い。
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このような種には一般的に知られる土を入れて均等にならす適度で良い。一方でprotaetiaのような種は意外にも丁寧な産卵を行う。彼らの卵は比較的大型になるが、産みたては乳白色を超えた土中でも目立つ純白かつ非常に脆い楕円形のものだ。そのために彼らは土を固めて卵を内部に生みつける「卵座」を作る。

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オオシマアオ、キョウトアオハナムグリ系統では顕著だ。そのために、ケースの半分ほどはマットを固めたほうが産卵数が伸びる。もっとも固めると言えどもクワガタのようにガチガチに固めるのではなく、手で少し押し固める程度のイメージで良い。何故なら彼らは産卵時、土中で部屋のようなスペースを確保するからだ。その部屋が崩れないものの、ある程度潜りやすい程度の詰め方で良い。

2.湿度について

こちらも何故かハナムグリの産卵には乾燥気味というテーゼが広がっている。これは恐らくアフリカのカナブン類が基準となっているからだろう。ちなみに彼らでさえ産卵時にはある程度の湿度があった方が良い結果になる。アフリカ=乾燥しているだろう、という短絡的な思考が見て取れる。ハナムグリ幼虫は本来野外において、地中深くや遮蔽物の陰に産卵され、幼虫時代を過ごし、成長につれて、もしくは蛹化時に乾燥した地表付近などに移動している。飼育下でもこれを再現すると良い。例えば上半分は無加水で下半分は通常通りの加水であったり、餌交換の際にのみ乾燥した用土に変える、など。

3.ハナムグリとバクテリア

定かではないがクワガタと同じようにハナムグリの孵化率や成長率にもバクテリアとの共生状態が大きな要因となっているという説もある。
私はこの説に懐疑的、もしくは微々たる要因だと考えているがいくつか根拠となりうる事例が存在する。

・protaetia類の飼育でマットの嵩やケースのサイズが小さいほど産卵に至るまでの期間が短かった。ネブトクワガタのように自らの糞尿により環境をコントロールしているのではないか 

・一部種でひとたび割り出しを行い撹拌を行なった結果、産卵行動をやめてしまった、もしくは再開までに時間がかかる

・一部種で採卵を行った結果孵化率が低下した

どれも観測事例が少ないほか、他の要因を理由にできることから確信足り得ない。しかし腸内細菌が飼料の分解においてかなりの部分を占めている昆虫である以上可能性としては十二分に考えられる。また、仮に自らバクテリアや細菌数を調整している場合、無闇矢鱈に大きなケースを使ったとて産卵数は変化しない可能性がある。実際に大きなケースを用いようとも、ある程度狭いケースを用いようとも産卵数はさして変わらない。


4.給餌について

今回の記事は微々たる気遣い、成虫の給餌方法に軽く触れて終わらせる。休眠明けにいきなり高タンパク高栄養な餌を与えると卵管詰まりを起こすという説がある。これはハナムグリではなくローゼンベルグオウゴンオニの飼育に関して耳にした事例だ。ハナムグリでそのような事例を観測したことはないが、彼らは所謂お漏らし産卵をする。そして昆虫類の産卵数には限りがある。交尾前に無駄玉を打ってしまってもしょうがない。そのうえ消化器官の負担にもつながる。休眠明けは薄めた餌を与えるのが得策だろう。また、彼らの断食期間は意外と長い。カナブンなど暴れ回る種は2週間ほどであっさり餓死してしまうが、protaetiaなどであれば1ヶ月程度の絶食には堪えるようだ。


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