国ブン手稿

主にアマチュア採集家が国産ハナムグリ×クワガタの生態に迫るブログです

タグ:シナハナムグリ

3回に渡る最後の記事は対馬よりお送りしております。ちなみに、対馬ヤマネコでは無いタダノイエネコは、島内に広く分布しています。

ケツがよFullSizeRender

これまでお送りしてきた記事のメインターゲットであるハチジョウヒラタやダイトウヒラタはどちらも島の名前を冠するヒラタです。となれば、今回のターゲットはツシマヒラタ、と言いたい所ですが、現実はそう甘くはありません。

ツシマヒラタを幾百匹捕まえようが出会えるか怪しい、そんな今回のお相手は国内に生息するヒラタ3種の一角こと、チョウセンヒラタの材割です。チョウセンヒラタ自体は樹液やトラップ等でそこそこ得られるようで、推測にはなりますが難易度的に言えばハチジョウヒラタのa型より若干難しい程度(苦労するが採れない程では無い)といった程度でしょう。しかし材割となると話が変わってきます。現地民によりちらほら材割で発見されるケースもあるそうですが、具体的な生態が一切判明しておらず、マユツバもの。加えて材には殆どツシマヒラタが入っており、選択的に本種を採集するのは至難の業。両種は亜種同士の関係ではなく全くの別種ですが、幼虫成虫共に外観が酷似しておりこの辺りも採集を面倒にしている要因の一つです。

参考 チョウセンヒラタ飼育個体FullSizeRender

両者の主たる差異は以下の通りです。

外観:雌雄共に、ヒラタの後脚には明確な外棘がある一方で、チョウセンはこれを欠く。雌雄共に、チョウセンの体幅、特に前胸背板の幅がヒラタ対比狭くなり、上翅は強い光沢を帯び、前ケイ節が強く湾曲する他チョウセンヒラタのメスは目上突起が完全に複眼を覆う、オスの大顎は丸みを帯びるといった差異があります。幼虫の判別はより困難で、チョウセンの体躯は若干細長くなり、頭部はツシマより丸みを帯びる傾向がある気がしますが、個体差の範疇に収まってしまうものです。が、チョウセンはツシマ対比かなり小型になる為、ツシマであればあり得ない程小型の幼虫であれば、必然的にチョウセンの可能性が高くなります。

生態:生態に関しては判明してる事項が殆どありません。ツシマヒラタが島内全体にコクワガタ以上の密度で多数生息していることに対し、チョウセンは主に沿岸部の疎林に少数生息しているのみ。成虫は主に歩行を移動手段としており、採集時も地面近くに仕掛けた果実トラップにかかることが多いとか。幼虫の生態は殆ど情報がなく、メスの前ケイ節から鑑みるに根食であるということのみ。ツシマヒラタやノコギリとどのように棲み分けているのか、全くの謎です。

くどいようですが、チョウセンヒラタはツシマヒラタとは亜種同士の関係ではなく、全くの別種です。そのため幼虫含めた生態等に違いがあって然るべきだと私は考えます。偶然幼虫が採れてしまった、を超え、明確な幼虫生態に迫る。これが今回のミッションです。


2.日程の組み方

私の持論に、冗長に粘って採れねば諦めろといったものがあります。勿論採集マンたるものいつ何時如何なる状況下でも諦めず粘り続けることが理想です。が、最後まで諦めず全力を尽くす事と、ダラダラ間延びした採集を続ける事は別物です。気力、体力共にフルコンディションを発揮できるリミットを考慮し、採集時間を絞る必要があります。特に離島の場合は天候の兼ね合いもあるため、雨雲レーダーと睨めっこをし、自分が出張るタイミングを見極めるのも重要です。私の場合一度休んでしまうと中々復帰できない一方で、寝ずに動き続けられる時間が短く、30時間に満たないほどです。ですが、30時間もあれば思い付く限りの手法を、複数ポイントで試す事が出来ます。更に、この自分最高のゴールデンタイムを遠征終盤に持ってくる事で、リミットが迫る適度な緊迫感と、これが終わったら後は帰るだけといった捨て身、火事場の状況を作り出す事ができます。今回の対馬遠征はgwを丸ごと使いました。4日早朝に現地入りし、7日の昼過ぎに切り上げる。折角対馬まで来たので最初の2日間は他の特産種を狙いつつ体を慣らし、終盤にチョウセンを持ってくる作戦です。そんなウォーミングアップに選ばれた名誉昆虫は以下の3種類。

3.オオクワガタを追え!

世の中には二種類のクワガタ採集屋がいると言われています。マルバネに行き着く者とオオクワに行き着く者(と、どちらにも属さない私達!)です。オオクワ屋が唯一遠征すると言っても差し支えない離島、それが対馬であり、裏を返せば対馬は実質唯一のオオクワが採れる離島とも言えます。実際は奥尻島や四国島があるじゃないか!といった意見もあるでしょうが、とにかく対馬産オオクワは、オオクワ屋であれば一度は採集したいレア産地!と言えるのではないでしょうか。オオクワに全く疎い私がこれ以上オオクワの事を語ると、防犯ブザー携行を伴わない夜間の外出が難しくなるので、前置きはこの辺にしておきます。

さて、そんな対馬のオオクワですが、採集の難易度はそこそこ難しいとされています。何故なら、台場クヌギやブナの巨木が乱立する森に住まう本土産オオクワが好む環境と、対馬産オオクワが好む環境が大きく異なるからです。この1フレーズを知っているだけで、難易度は数段落ちるでしょう。こんな夜中なのにインターホンが鳴っているので少し玄関を見てきます。

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冗談はさておき、オオクワガタに関する情報は他種対比センシティブでどこから恨みを買うかわからないので、これ以上詳しく書けません。月刊むしの古い記事などに詳細ポイントが載っているので、そちらを参考に、若しくは私に直接dmしてください(泣)話を採集に戻します。本土産オオクワと対馬産オオクワ、最大の違いは好む樹種にあります。一方で樹種が違うと言えども、オオクワが飛来しやすく、白色腐朽菌にとって有利な、風通しが良く開けている環境を探す事に変わりはありません。ガレ場沿いや尾根沿いにある落下材や倒木を割ながら歩いてるうち、日が登り切る前に発生木を2本当てる事ができました。
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3.大陸系イケメンでマヂ狂い

オオクワの産地しかり、対馬の森はどこも非常に歩きやすいように感じます。下草や灌木が少なく、斜面が緩いせいでしょうか。本土マムシよりも気性の荒い対馬マムシが生息していますが、現地爺曰く、最近はイノシシやイタチの捕食により個体数を減らしているそうです。要するに、山肌であっても沢沿いであっても、地面を気にせず斜面を駆け登り、転がるように降る事ができます。標高を上げるも下げるもさしたる労力を使いません。沢沿い×標高、勘の良い方はお気付きかと思いますが、対馬にはキンオニクワガタという、外しては通ることのできない超絶イケメンな固有種が生息しています。
参考 飼育個体
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鈍色に輝く全身は角度によりビスマス鉱のような彩光を放つのみならず

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スラッと前に伸びつつも天を衝くかのように反り上がった大顎を持ちます。国産種屈指のビジュアルを誇る本種ですが、採集自体は至って簡単です。オニクワの名を冠している以上、ある程度の標高は必要ですが、本土のオニクワガタが標高700m前後、屋久島のオニクワガタが標高500m前後から個体数が多くなる一方で、本種は200mもあれば十分個体数が確認できます。

本種の生息する沢FullSizeRender

材の湿度や枯れ方にも寛容で、通常のオニクワがしっかり黒枯れ×水没寸前の多湿材を好む一方、本種は接地材かつ表面が手で崩せる程度に朽ちていれば、中が白枯れでも問題なく生育できるようです。IMG_7646
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ちなみに同所的に頭部の色形が良く似たコクワガタが出土しますが、コクワの気門は明確なc型を呈している一方、本種の気門はほぼi型に潰れているため、判別は容易です。

他にも赤枯れを叩いているとネブトなんかも見る事ができました。IMG_7651

これらのクワガタ類が生息する山にはアカアシクワガタも生息しているようですが、オオクワガタの数倍採集が難しいのではないでしょうか。ちなみに、キンオニ自体湿度の高い環境にいること、表皮が薄いこと故か、メタリジウム菌の感染率はかなりのもので、採集個体の4分の1程が表皮に黒点を有していました。採集後の表面洗浄、複数ルアケ持参、既製品マットを詰めてくるといった対策は必須です。

初日の午前はこれにて終了。

4.ど地味な激レア種でガンギマリ

午後はこれまた国内では対馬にのみ生息する固有種、シナハナムグリの捕獲を試みました。この種自体、近年では流通も少なくありませんが生息地が局所的であるが故に、一昔前まではレア種の扱いを受けていたとか。現在でも幼虫は未発見でしたが、旅程中殆ど雨天に見舞われていたため、幼虫堀りを敢行せざるを得ませんでした。今回は成虫の採集経験がある方にポイントをご教示頂いていたため、早速ポイントに向かいました。が、到着するなり辺りを見回し、呆然。海風がビュンビュン吹き付ける急斜面で土壌も特徴的な礫岩からなっておりとてもハナムグリに優しい環境には思えませんでした。ちなみに、サムネイルに使用している画像は特徴的な対馬礫岩の画像です。当該ポイント周辺の土壌はこのような礫岩が風により削られて出来た砂利の上に僅かに腐植物が堆積しています。
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確かに地面をローラーすると、ハナムグリの糞自体は出てきますが、幅広(ナミカナブン?)であったり大型であったり(シロテンハナムグリ?)、中々本種の物と思わしき糞が出てきません。本種の活動時期が5月なのも相まって、幼虫は勿論のこと、せめて繭玉や繭玉の破片だけでもと思えど、なしの礫でした(礫岩だけに)。そうこうしているうちに、雨雲レーダーが赤になるほどの豪雨と雷に襲われ退却を余儀なくする事に。初日の採集を諦める事となりました。

二日目は明け方から採集を開始。結論、斜面に生える木に引っかかる腐植土を中心に捜索した結果、それらしき幼虫を幾つか発見。FullSizeRender

午後には30分ほど晴れ間が差し、飛来した成虫の捕獲にも成功。
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クワガタの採集記事であるため、シナハナムグリについての詳細は割愛させていただきます。詳細はシナハナムグリの記事で詳しく採り上げておりますのでご興味のある方はご覧下さい。
結局2日目の夕方頃までシナハナムグリの捕獲に時間を費やしましたがここまでは想定内。良い感じにエンジンが掛かってきた所で、次回はいよいよ後半戦。ヒラタ採集三部作の最終回ことチョウセンヒラタの幼虫採集に挑みます。

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1.基本情報

和名:シナハナムグリ(朝鮮半島亜種)
名:Protaetia(Potasia) famelica scheini
   Miksic,1959
体長:16.4~19.7mm

生息:対馬

国内では対馬のみに生息する。詳しい範囲は不明だが、原名亜種は中国の北部に、本亜種は朝鮮半島や中国の周辺地方に分布。つい最近まで珍品の扱いを受けており、島内でも分布は局所的。ハナムグリは幼虫が未発見(公式の記録としては残っていないが、実際私のように論文を執筆報告していないだけで発見している人は多いのではないか)である種が少なくないが、本種もそのうちの一つ。

2.形態

風貌を一言で表せばイシガキシロテンハナムグリ対馬亜種。頭楯は中央部で凹圧し、翅端部は殆ど尖らない。シロテンハナムグリに酷似しているが、本種の体躯はかなり小型になる。一見すると地味な種だが、フ節が鮮やかな緑銅色に輝く。色彩変異は少なく、基本的に暗銅色、稀に緑銅色や赤銅色。FullSizeRender

シロテンハナムグリとの比較
本種の生息域にはシロテンハナムグリ(以下シロテン)も当たり前のように生息している。

シロテン@対馬
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シロテンでも小型化する個体やフ節が緑銅色になる個体は存在する。両者の判別は中胸腹板や前胸点刻の観察により可能。

ほとんど同サイズのシロテン(左)との比較。
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中胸腹板の形状。シロテンは扇子型に近い。
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シナハナムグリ。横幅が狭い。
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前胸の点刻。シロテンの前胸部は中央にかけて点刻が消失するため、強い光沢を放つ。
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一方シナハナムグリの前胸点刻は、本種自身の上翅やシロテンの前胸部と比べ細かく密。より中心部まで同じ密度で刻まれている点も特徴。

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他、上翅白紋に関してシナハナムグリの方が細かく広範囲に発達する、腹面の体毛が濃い、上会合部や凹圧部の凹凸が強い等の特徴がある。どれも微々たる差異であるが、前胸の点刻や光沢は野外で観察した際にも雰囲気の違いとなって現れるため、判別を大きく助ける。

雌雄判別
雌雄判別は尾節板で行う方法が容易い。

雌尾節板。大きく突出する。FullSizeRender

側面は凹圧されない。
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雌前脚ケイ節。明瞭な3外歯を備えるが、生息地環境のせいか発生初期でもすり減りが激しい。
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雄の尾節板。あまり突出しない。
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側面は若干凹圧されるが、わかりにくい。
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雄前脚ケイ節は雌対比若干幅が狭いが、こちらも明瞭な3外歯を備える。判別の材料として用いることは難しい。
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幼虫形態
成虫を採集した箇所より本種の幼虫と思われる(同所的に生息するシロテンハナムグリの幼虫とは風貌が異なる幼虫。飼育品の画像は確認済)を多数採集した。以下、幼虫に関して言及する事柄は、全て採集品がシナハナムグリであるといった推測に基づいている事をご留意されたし。

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幼虫の形態もシロテンに酷似しているが、やや小柄で体毛が濃い。後述するが、幼虫は礫岩主体の土壌に僅かに積もった堆積物を食している可能性が高い。そのせいかシロテンと比較して体幅が胴体から頭部にかけて大きく狭まっており、より潜行に適した形状となっている。(赤矢印の角度が急で頭部が小さい)

3.生態

成虫は5月上旬より8月下旬まで発生し、各種樹木や草本の花に集まる。Protaetiaとしては珍しく、発生のピークが5月中下旬と早い。既知の限りでは5月中に産卵された個体は晩夏に羽化し、翌年まで休眠するとある。一方で成虫の発生時期にも幼虫が得られることや飼育下では一年での羽化が確認されている。観察例が少なく要検証ではあるものの、アオハナムグリ等と同じく5月の早期に産卵された一部個体が晩夏に羽化し後食後に越冬し翌年産卵するのみであり、殆どの個体は幼虫や繭玉で越冬する単純な1年1化
であると推測できる。(あくまで推測)

島内でも分布は局所的で、海岸沿いに多い。生息域に樹液木があり、かつシロテンハナムグリやケシキスイ、スズメバチ等が利用する程に発酵していても、本種は花を選択的に利用する。発生時期、餌資源共に同所的に生息するシロテンハナムグリとの棲み分けが為されている。
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同所的に生息するコアオハナムグリやクロハナムグリが立地を問わず様々な木の花を利用する一方で、本種は同じ斜面同じ樹種でも、特定の木に集中する傾向が観察され、特に風の影響を受けにくい箇所に多く見られた。
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生息ポイントでも1.2キロ程内陸に行くと個体数が激減する。下画像のように見晴らしが良くコアオハナムグリが爆発的に集まっているようなシイ類の花でも、ごく少数の個体が見られたのみであった。
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バナナトラップも有効で、上画像シイの木に仕掛けた際、若干数の飛来が見られた。

幼虫は礫岩主体の土壌に生育し、堆積物を食している。礫岩の上に僅かに腐植質が積もっているような環境であり、人間の力を持ってしても非常に掘りにくい土壌だ。繭玉を作る空間が確保できるかすら危うい。
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急峻に生える木の根元など、地形の問題で堆積物が溜まりやすい箇所に多く観察される。
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生息地の山一つ例にとっても、海風が強く吹き荒ぶ側の斜面からは多くの幼虫が得られ、凪いでいる側の斜面からは殆ど得られないといったことがあった。成虫からすれば飛翔時に風の影響を受けない斜面側の方が繁殖に適しているように思えるが、どうも不思議だ。推測に過ぎないが、風により礫岩が風化しやすい、つまり土壌が岩状ではなく砂状に近い箇所方が生育しやすいのではないか。

4.採集

gw前後、晴れ間が除いている際に海岸沿いの生息地付近を飛翔、訪花する個体を採集、若しくはバナナトラップ等が有効。5月中はネズミモチやノバラ、トベラ等、時期が遅くなればカシワの花でも採集が可能であると推測される。生息地にはカシワやコナラが多数乱立しており、他種のように花資源に乏しい時期は必要に応じ樹液や若枝を齧り飢えを凌いでいるものと思われる。 

5.飼育

通常のマット等で産卵可能。幼虫飼育、休眠管理等は現在検証中であるが、恐らくかなり容易な部類に含まれるのではないか。余談ではあるが、ハナムグリ類の例に漏れず本種も独特の臭気を発する。決して心地良い臭いではないが、若干柑橘系のテイストが入り混じり不思議な感覚を覚える。

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