継続的に当ブログを訪れて下さる方は既にご周知のことかと思いますが、私の好む採集スタイルは「材割」です。余計な小細工は用いず、ブロックハンマー、はたまた斧一本で対象昆虫の生態に迫るこの手法を私は愛して止みません。しかしながらこの採集方法は、一般的な採集者≒成虫の野外品標本を作成することが目標である人達の間では、マイナーなやり方となっています。私の場合、採集の先にある目標がブリードや幼虫生態≒その虫の本質に迫ることなので、このスタイルがマッチしていますが、少数派であることに変わりはありません。今回のターゲットは、そんな「材割」がメインの採集方法になる種類です。

1.八丈からの入植 うふあがりを知る

今回の舞台は通称うふあがり島こと北大東島です。前回の八丈島から1ヶ月足らず、この島に赴いた理由はこの島の歴史と関わりがあります。

北大東島が属する大東諸島は南大東島、沖大東島、その他小島から成り、有人島は南北大東島のみです。どちらも四方4キロにも満たない小島ながら、人口は北大東が600人強、南大東が1400人強となっています。大東諸島から一番近い有人島は沖縄本島ですが、それでも尚沖縄から見て400キロ程南東にあります。文字通り絶海の孤島で、小笠原同様「果て」を感じます。

FullSizeRender

このような地理的特性上、上陸は20世紀に入ってからの事であり、比較的歴史が浅い島であることがわかります。余談ですが、先島諸島や大東諸島のように、土着の歴史が浅い島は島民の起床も穏やかである一方、奄○や沖○本島といったような島はウチナーに厳しいといった噂がまことしやかに囁かれていたりいなかったり...

一番近い有人島が沖縄本島ということで、当然入植も沖縄本島から行われたと考えることが適当でしょう。が、事実は小説より奇なり、なんとこの島に最初に入植した人々は「八丈島」より、遥々海を越え辿り着いたといいます。航海技術も未発達な時代に、まだ見ぬ土地を求め1100キロ以上の大洋を荒波にも負けず、超え進むフロンティアスピリッツにあやかり、八丈→大東という行程をトレースしました。

が、実際の所は資本主義に物を言わせ、那覇空港よりプロペラ機で30分と短い冒険の旅に留まりました。現代の旅路に困難なんてありませんガハハ。

IMG_6395

ちなみに、八丈島からの入植ということで、グルメも島寿司など八丈の影響を色濃く受けています。こちらの島寿司には唐辛子は使われておらず、甘辛い所謂一般的なヅケ寿司で、ネタはマグロやサワラが主流だとか。他にも方言も八丈のものに近いようですが、方言の濃い人と出会わなかったため検証出来ずしまいでした。折角なので島の事情にもう少し踏み込んでおきます。北大東は戦前リンの採掘業で栄えた島であり海岸に当時の遺構が残されています。イメージはさながらモンスターハンターシリーズに登場する孤島ステージ。

FullSizeRender
FullSizeRender

現在は製糖業が栄えており、島のほとんどはサトウキビ畑。人口は600人強ながら沖縄県内の市町村別平均所得がトップとなっています。IMG_6481

2.北大東のヒラタクワガタ

今回のターゲットはヒラタクワガタ大東亜種、一度当ブログでも過去に取り上げた事がある思い出深い種です。

FullSizeRender
高校時代の香ばしい記事を記念として残してあります。どうぞご査収ください。

寸詰りで脚部が全体的に短く、小柄。そして何より小豆色の体色が目を引く最も特異な風貌を持つ亜種ですが、国産離島ヒラタの中で最も早期に進化を遂げたとも言われています。南北大東島はおよそ13キロしか離れておらず、両島に生息する個体間に際立った違いはないと言われています。北大東島の個体群は南大東対比色艶が鮮やかになるとの情報もありますが、真偽の程は定かではありません。

脚部が未発達であるといった特徴は、歩行を主体とする生活もしくは移動を必要としない生活を長年続け、退化した証左とも言えます。事実本種が果実トラップや樹液などに集まっている様子は確認されておらず、(ライトトラップに飛来した事例があるらしい)発見される成虫は発生木の周りを歩行する個体や内部のフレークに留まっている個体がほとんど。つまり、本種の採集方法は発生源となる倒木を直接叩く方法が主となります。

前回紹介したハチジョウヒラタや本土ヒラタは基本的に地中部の材を利用しますが、本種を含めた南西諸島のヒラタは地上部だろうが地下部だろうがお構いなしに利用します。そのため、結論本種を採集するのみであれば、難易度は高くありません。事実、南大東島については、毎年多くのクワガタ屋が赴き、坊主をかます人間はいない程度の難易度です。問題は今回の舞台となる北大東島の環境で、南大東対比殆どマトモな森林がない上に島中が極端に乾燥しており発生源となり得る物件が非常に少ないといった事情を抱えています。従って採集も困難、鬼畜難易度を誇るとされ、多くの媒体で取り上げられています。当然北大東産のダイトウヒラタにはプレミアが付いていますが、飼育下ではバカスカ増える虫なので、わざわざ採りに行く人がいないといった所が実情でしょう(行けば採れる)。と、出向く直前まで考えていました。


3.いざ島へ

この島においても生息するハナムグリは移入種のサカイシロテンのみであり、狙いはダイトウヒラタクワガタとダイトウマメクワガタ2種に絞られます。従って日程も半日程で済むとタカを括り、週末弾丸採集を計画しました。仕事終わり成田に直行し、翌朝早朝の便で那覇へ。那覇より北大東行きの直行便に乗り込みます。IMG_6396


島には土曜の昼過ぎに到着。夕日に照らされる廃墟を眺め、のんびり始めました。FullSizeRender

大東諸島は珊瑚礁が隆起して出来た島で、当然地面も雨水により削られ尖った石灰岩から成っています。歩きにくい事この上ないことは元より、土壌が水を湛えないために島全体が乾燥しています。もう一歩島の地理に細かく迫りましょう。島の外周部は迫り上がっており、そのような箇所は「幕(ハグ)」と呼称されています。この幕部分がモクマオウやギンネムから成る防風林(長幕)となっており、島の中心部を囲っています。ちなみに、激しい海風から守られている盆地状の島中央部には集落があり、これらの地域は「幕下」と呼称されています。この「幕下」にはガジュマルやシマグワ、ダイトウセイシボクのような一般的な沖縄の森が点在しているため、初めはこれらの森を探索することにしました。

石灰岩が雨水により削られ出来た地形は存外かなりの高低差があり、本当に四方4キロに満たない島が見せる景色なのかと、目を疑いたくなる程複雑怪奇なものになっていました。
FullSizeRender

写真が下手すぎて上手く伝わりませんが、落差10メートルほどの谷があったり。

FullSizeRender

島中続いているのではないかと思う程複雑に入り組んでいる洞窟があったり
FullSizeRender
中々のダンジョン感を楽しめました。決して遊びに来た訳ではありません。狙い通り、このような地形には湿度が保たれた材が転がっていました。これで勝ったも同然と思ったのも束の間そこそこの本数を叩いたものの、手がかりすら掴めず。「この俺がヒラタ如きに苦戦を...?」といった感想を抱いているうち、豪雨と雷に見舞われ一時退却することに。

知人とラインをしている際に「あまり高低差がある複雑な環境は、飛べない(飛ばない)ダイトウヒラタにとってアクセスが悪すぎるのではないか」との意見を頂戴し、作戦を切り替えることにしました。

4.ヒラタに苦戦

次に入ったのは防風林。日付が変わった頃より1.2時間ほど探索しましたが、今度の土壌は殆ど岩が露出している状態であり、枯れ木も干物にと化したカチカチになっているものか、カサカサに赤枯れたリュウキュウマツのフレークだけでした。腹いせにリュウキュウマツを叩くも、流石にクワガタは出ず。その後、集落周りや溜池周り島を回るも、とにかくマトモな材がなく「絶対いないだろこの材」といった材を割った同業者の痕跡が散見されるのみでした。

そして朝になります。雨も上がりリミットも近づいてくる中、最後に選んだポイントは
・等高線がキツい箇所の真下にある≒歩いてきたヒラタが転がり落ちてくるであろう
・等高線のユルい箇所(落差の反省を活かして)

でした。森の入り口は初日の環境に似て石灰岩が剥き出しになっており、生えてる植物もオオタニワタリを中心にクワガタが入らないものでした。

FullSizeRender


歩みを進めるうちに、やや土壌の質、材の湿度がマトモになってきます。
IMG_6455

然し乍らここで第二の問題が発生。

どの材を割っても、夥しい数のアリが出てくる出てくる。おそらく、土壌が石灰岩であるが故に地面に巣を作り辛いのでしょうか、どの材も例外なくアリの巣となっていました。昨日から朽木中にフレークが溜まっている事が多々あり劣化したヒラタの食痕を期待していましたが、答えはよりシンプルで、アリが巣を作る過程で削り出した木粉であることがわかりました。おや、これは某山猫島での採集に役立ちそうな情報ですね。

最終的に辿り着いたのは、ある程度開け、乾燥した太めのモクマオウが乱立している箇所でした。が、やはりどの材を割ってもアリの巣ばかり。
FullSizeRender

湿度とアリを除けば、今までで一番土壌に腐植物が積もっており、材の本数も申し分なかったため、八丈遠征により揺らいだ従来の「ヒラタ=多湿材」と言った固定観念を捨て、捜索を続けます。すると、アリに侵食されている材ながら、フレークの中から見慣れた幼虫が出現。

FullSizeRender

午前7時頃、ようやく最初の幼虫を手にすることができました。1匹捕まえて仕舞えば後は簡単です。付近の材から多数幼虫を得ることができました。
白い小さな幼虫は蟻の幼虫です。キモすぎわろた。
IMG_6458

材の状態があまりにも劣悪で、ヒネる一歩手前の幼虫も多数。
FullSizeRender

アリに噛まれて身を縮める幼虫
FullSizeRender

かなり乾燥しているものの標準的な白枯れからは10数頭の幼虫が得られました。
IMG_6569

そんなこんなで発生木を6本ほど当て終了。どの材を割っている際にも、材中から無限に湧き出るアリは勿論、気付けば材から離れている土壌にすらアリの大群が。さながらアリの絨毯です。荷物に、ハンマーに、手袋の中に、蟻、蟻、蟻。加えて、この島にはタイワンキドクガという毒を持つ蛾、毛虫の類がかなりの密度で生息しています。果たして特定の食草があるのか疑問に思うほど、どの木にも姿を見せるため、藪漕ぎをしていて本種との接触を避けることは実質不可能です。IMG_6673

気持ち悪さがピークに達した為、耐えきれず海へと向かい、汗を流します。
FullSizeRender

遮る物は皆無、ただ究極に太平洋
IMG_6489

大東では神社にお詣りすると採れるとのジンクスがあります
IMG_6575IMG_8136

その後は地元の食堂で島寿司をば。
全体的に甘めな味付けとなっており私好みでした。また、画面外にてジャガイモを麺に使用したソーキそばを頂きました。北大東の新しい名物にする動きがあるそうですが、しっかりとした歯応えがかなり美味で、島を代表するに相応しい逸品でした。
FullSizeRender


5.マメクワガタとサイカブトについて

その後は余った時間でダイトウマメとサイカブトを回収することに。
固有種ことダイトウマメクワガタは、太めかつ新しめの白色腐朽材に入っています。本土対比大型で艶が強く、湿度の高い材を好むそうですが、海岸沿いのガサガサ剤から出るなど、生息環境に関してはさしたる違いがあるように感じませんでした。南大東に行く人々の間では無限に出てくるかのような話を聞きますが、北大東においてはしっかり捜さないと採れない印象です。分布は広く島中で確認しましたがこの時期はどうやら前蛹〜蛹が主流であるようでした。IMG_6645

サイカブトに関しては、下記画像のようなフェロモントラップが島中のサトウキビ畑の横に仕掛けられており、3月にもかかわらず多数の個体が確認できました。
IMG_6656

私はあまりカブトムシに興味がありません。それでも普段見ない熱帯性大型甲虫を手に取るという行為は、中々に興奮する出来事でした。
FullSizeRender

サイカブトに言及する以上はヒサマツサイカブトにも言及するべきでしょう。ヒサマツサイカブトは南大東島のみで確認されているサイカブトで、通常のサイカブト対比圧倒的な横幅を持ち、胸角も大きく発達するそうです。是非一度お目にかかりたいものですが、確認されている個体数は2桁に満たず、偶産かはたまた絶滅種か、なんにせよUMAのような扱いを受けています。
現在では種の保存法で採集が規制されていますが、生息環境を確認すること自体は禁止されていません。先人や現地民が調査を重ねているにも関わらず発見されていない以上、本気で探したとて出会える確率は非常に低いでしょう。しかし、前提として本格的な調査が行われてきたのか、疑問が残ります。数年前まで幻と言われていたヤエヤマコクワは調査を重ねた結果、現在では多数の成虫が得られていますし、長年採集されてこなかった幼虫も私の手によって採集されました(隙自語)。どうせ無理だからと誰も彼もがハナから諦め、本格的な調査を行ってこなかった、といった実情が隠されている予感がします。既に捕獲されているサンプルがどのような経緯で捕獲されたかは存じ上げませんが、もしサイカブトと同様にフェロモントラップに飛来した個体であるならば、調査の余地は十二分に残ります。例えばダイトウヒラタは後食を行わず、発生木の周辺で一生を送ります。サイカブト類同様の適応を遂げていたとてなんら不思議ではありません。海外に生息するこの手の種のように、林内のビロウやその他樹種の、樹幹部や根元に坑道を掘り、その周辺で一生を終える。そんな生態の妄想をしながら、帰りの飛行機に乗るべく空港へ向かいました。


6.エピローグ

滞在時間が24時間に満たない、まさに弾丸な旅になりましたが、かなりの満足感を覚え島を後にします。

IMG_6650

が、一つ問題が。忘れていたドクガの存在です。那覇空港に着く頃には、初めは腕の一部だけだった炎症部位が全身の柔らかい箇所(腹、腿の内側、首etc、、、)に広がり、想像を絶する痒みを味わうことに。今回、腕以外はタイツで覆う完全防御で臨んでいたために、この現象は不可解でした。調べると、直接幼虫に触れていなくとも、服越しに棘が貫通し、風に吹かれた毒毛が付着し、炎症を起こすそうです。なんだこのド害虫は。これらの毒毛は洗濯しても簡単に落ちないそうで、洗濯機を7回回しました。高熱水道費が会社負担で本当に良かったと思っています。正しい対処法は、刺された時点でセロテープ等で毒毛を除くことらしいですが、目に見えない毒毛が刺さっているかすらわからない以上、対処の仕様がありません。結局毎日ムヒを体に塗り込み、2週間ほど治るのを待つハメになりました。皆さんも気をつけましょう、と言っても気を付ける方法がありませんね。


今回のように適度な緊迫感、難易度がある採集は以下のようなルーティンを産み出します。

難易度の高いターゲットを定める

初日は大体悪天候でなしの礫打撲切り傷虫刺されに耐えながら、夜通し山の中を這いつくばり、がむしゃらに斧を振り、目標を達成する

この瞬間の開放感、興奮たるや、絶叫必至です離島は大体夜に雨が降ります。逆に日が出る頃には晴れる頃が多い為、大概採れる頃に光が差す感動的なシチュエーションが味わえます。

シャワーで汗を流す最高その1.

窓全開で海沿いを走る最高その2.

現地飯で腹を満たす最高その3.

簡単すぎても達成感を得られず、難しすぎても徒労に終わるor観光する余裕がないと、バランス感覚が大事になります。次回の記事はバランスが取れず苦行と化したエピソードです。



北大東産オオタニワタリとツルナ、青パパイヤを用いた料理ズ。FullSizeRender