社会人になってからは物見遊山をメインに据え採集から若干身を引きつつ海外を飛び回る予定でしたが、国内でやり残した事(ヤエコの成虫材割とチャイロホソの採集)がありました。昨年数度某島に赴いたものの、成果は出せず。ヤエコに関しては幼虫を採集済みですが成虫材割は叶わず、後者は無論擦りもせず。一度アリの巣より前胸のような物を見つけましたが十中八九ゴキブリか何かの体パーツでしょう。全く手掛かりが掴めない中雨の八重山を彷徨い続ける遠征を繰り返し、採集自体へのモチベーションが枯渇していました。

そのような折、ヤフオクでの国産希少種売買規制が発生。うち、ハチジョウヒラタやダイトウヒラタ、チョウセンヒラタにキンオニクワガタといった種はいずれ自己採集したいと考えていましたが、学生時代は専らハナムグリの固有種が生息する島にのみ赴いていたため、彼らの生息地である八丈島や大東島、対馬を舞台にした遠征は後回しにされてきました。そこで今回、巷では採集難易度が高いと言われている上記の種を採集することにより、自信やモチベを取り戻すと共に、先延ばしにしてきた課題を片付けてしまおうといった作戦を目論んだ次第です。


1.八丈島へ...

初回はクワガタ屋のメッカこと八丈島やりお送りします。完全に余談ですが、竹芝桟橋5回目にして私が長年愛読している漫画の舞台になっている事に気づきました。FullSizeRenderFullSizeRender


金曜の仕事終わりに竹芝に直行し乗船します。まだまだ寒い時期で、雨も相まって人がいない甲板は快適です。IMG_5566

ここで今回の舞台となる八丈島に関する解説をば。タイトルに「島流し」と入れた通り、この島には流刑地としての歴史が残っています。有名所は関ヶ原の戦いで西軍に属していた宇喜多秀家あたりでしょうか。一方で古来の航海技術では遠過ぎたのか、流刑地としての歴史は他の伊豆諸島対比新しく、江戸時代以降が主流となっています。ちなみに八丈島のみならず伊豆諸島全体には、流刑者、遭難者の存在が元となり産まれた海南法師関連の伝承や禁忌が残されています(〇〇日の〇〇時以降は家中の窓や戸を締め切り戸口に柊と魚の頭を飾り、一言も喋ってはいけない、海の方角を見てはならない、といった具合)殆どの島が野宿禁止ですが、特定の日に野宿をし、海を見てしまったら一体どうなるのでしょうか...。暗い歴史は流刑だけではありません。海上の孤島かつ作物が育ちにくい火山島という性質上、飢饉とは切っても切れない関係がありました。19世紀に薩摩芋が持ち込まれるまで幾度となく飢饉に見舞われたこの島には、口減らしや姥捨にまつわる史跡等が多数存在します。他にも第二次世界大戦時に本土上陸を防ぐ前線基地として島中に砲台や塹壕トンネル、戦車用の一周道路が作られているなど、話題に事欠かない島であります。虫オタクin塹壕の図FullSizeRender

今回も例の如く雨天に見舞われ、天気の合間を縫い昼夜を問わず山に突撃しましたが、上記のような事情の手前若干の抵抗がありました。FullSizeRender

ここまで八丈島に良からぬ印象を抱かせかねない内容になってしまいましたが、実際の所は「沖で見たときゃ鬼島と見たが、来てみりゃ八丈は情け嶋」と言う民謡に示される通り、流刑者に対する扱いは悪い物ではなかったようです。島全体にゆったりした時間が流れており温暖な気候と雄大な自然が相まって、東京から乗り継ぎなしで訪れることが出来る手軽なリゾート地として、一昔前は人気を博していました。沖縄返還前には多くの人が新婚旅行で訪れた先であり東洋のハワイなんて異名もあったとか。現在もダイビングや大学生の一人旅行先として人気があるようで、私が宿泊したユースホステルにもそのような方が複数名みられました。

歴史のお勉強はここまでにして、話を当ブログの趣旨的な部分に戻します。この島に目ぼしいハナムグリは生息していません。強いて言えばムラサキツヤの黒化型と移入種のリュウキュウツヤが生息する程度です。一方クワガタに関しては独自の進化を遂げており、4つの固有亜種が生息しています。東京から船や飛行機1本で行けるアクセスが良さも相まって、離島クワガタ採集の登竜門として、根強い人気を誇る島であります。その中でも、毎年多数の採集者が訪れるにも関わらず採集が困難とされている種が1種存在します。


2.今回の目標を知る

そんな今回のターゲットは「ヒラタクワガタ」です。今更ヒラタを!?といった具合ですが、この島のヒラタは面白い事に、島内にAB型といった二つの「型」が生息しています。両者とも共通して

日本亜種(本土の個体群)と比較し

体躯が細長く、小型化する

光沢が強くなる

脚部は短く、前脚ケイ節が幅広になる

オスは後脚の段刻が一つ

メスは眼上突起が目を完全に覆わない

といった違いがあるものの、最大の違いはオスの大顎にあります。A型のソレは本土ヒラタに非常に酷似した内歯下りで、特段魅力的には思えません。一方B型の大顎はさながらコクワやはたまたウンナンヒラタのように、前方にスラッと伸びた顎に内歯上がりと、極めて異質な特徴を備えています。

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かくいう私も知人より譲り受けた個体を 2020年頃まで飼育していましたが、産卵数が確保できず偏って終了。私のズボラ管理を抜きにしても他種対比産卵数が少ない印象でした。本種は他のヒラタ類と異なり材に好んで産卵します。希少性と関連があるのでしょうか。上記のような事前情報もあり、ヒラタの採集自体は容易でした。が、残念ながら採集した幼虫がA型であるのか、B型であるのか判別する方法はありません。成虫が活動していないシーズンにB型を狙って採る行為は困難を極めます。A型に関しては島内全体に広く生息している一方で、B型に関しては生息域が超局所に限られており、かつ近年では道路開発等により両者の生息地間での往来が容易くなり、交雑が起こっているといった噂もある等、中々に向い風な状況。また、タチの悪いことに、両型に際立った生態の違い等はなく、ただただ数十四方メートル、島の一部に点在するポイントを知っているか、しらみ潰しに島内を探索できるかが採集の鍵となっています。要するに材割での採集を試みる場合、の判別がつかないまま、実質採れているか採れていないかわからないままモチベを維持しつつ、タイムリミットまで無限に採集ポイント数を追加する、といった行為、もとい気力が求められます。成虫活動時期の採集に甘んじれば良いのですが、幼採専攻の意地が許しませんでした。

ちなみに本種(八丈ヒラタ)の個体数減少要因として「マニアによる採集や材割行為」が騙られています。無論、少しでも環境関連に理解がある方であれば、採集者が個体数に与える影響が微々たるものである事が理解できるでしょう。こと八丈島においては素人目に見てもわかる程無計画な道路の開拓による島全体の乾燥が八丈ヒラタのみならずクワガタ類全体の減少を招いています。そもそも、島民が人里の周辺を切り拓けば、切り拓いた場所やその周辺は徐々に乾燥します。併せてクワガタも徐々に減少することは火を見るより明らかです。それを「我々が子供の頃にはもっと沢山いた」「採集者が原因で減少している」などと曰う様はなんとも。
そもそも個体数が減っているのはあくまで一般人の目に留まるような場所での出来事であり、山中等の環境にも同様のことが言えるのか果たして疑問が残ります。さらに、無知な虫屋が道沿いのカラカラに乾いた、コクワですら入るか怪しい材の地上部を割り散らかす、材を起こしっぱなしにする。上記の行為が無知な島民の目に留まり個体数減少の要因に仕立上げられる。最悪の悪循環が産まれている状況です。虫屋たるもの一般人が侵入できないような箇所で採集を行うべきですし、そのような環境には毎年沢山の発生源が追加されるため採集者如きの活動が生態系に悪影響を及ぼす心配もありません。オオクワ問題でも頻繁に物議を醸していますが、素人がその辺りの加減を理解せず一元的に材割批判をする様も腹立たしいものがあります。そのような連中に限って「採集中に島民から声をかけられたが、規制の中で採集していることをしっかり説明したら理解してくれた(バチバチに怪しいけど面倒なオタクがマシンガントークを仕掛けてきたので渋々引き下がった)」などと発信している様子をよく見かけるのは気のせいでしょうか。無知な一般人と無知な採集者、限界バトルの先に見るものとは...!

3.八丈島のクワガタ幼虫達

またまた話が逸れました。採集記に戻ります。

今回の採集時間は48時間。土曜日の朝に島に到着、そのまま(初日)全種を回収し、日曜日にヒラタの産地数を追加。月曜朝の船で帰る作戦です。強い海風の影響を直に受ける八丈島に生息するクワガタは、どの種も飛翔は確認されているものの、基本的には歩行を主体とした生態が特徴となっています。その為成虫の活動時期には歩行中の個体や接地材の下に潜んでいる個体を回収する、少々特異な採集方法が主流です。しかし幼虫採集の方法に関しては特殊な手法はなく、一般的なヒラタ採集と同じ様に埋没材を中心に探します。

産地について少し触れておくと、B型の大まかな産地としては島の南東部が有名です。恐らくこの記事に辿り着いた方の最大の関心は「詳細ポイントに繋がる情報を得られるか否か」だと思いますが、地区名まで特定したとてポイントを当てることが困難な状況である為、公開しても意味がないのかなと思います。FullSizeRender

私も事前情報を備えないまま突撃し、最終日の夜中に、20年程前の月刊むしに掲載されているポイント情報(某中学校の裏手)を知りました。が、結局当該ポイントからもA型の成虫が出た為に、やはりB型のポイントは自分で探す他ないのかなと思います。

ハチジョウノコギリについて

以上の内容から、今回の目標に辿り着く為に突破すべき第一の障壁が産地を当てる事だとご理解頂いたかと思いますが、材割でヒラタクワガタを狙う以上避けられない障壁がもう一つあります。それはノコギリクワガタの存在です。南西諸島ではノコギリを狙う上で際限なしに湧くヒラタに悩まされる事になりますが、本土や八丈といった高緯度帯ではヒラタを狙っているのにノコギリしか採れないといった事態に遭遇します。一応この島のノコギリは種として記載されている為、一般的な虫屋からすると嬉しい代物かもしれません。しかし、ヒラタを狙う限りでは、どんな粗末な材でも積極的に利用する本種の存在は鬱陶しいことこの上ないものとなります。
一度胴体ほどの太さがある立ち枯れを薙ぎ倒せば数十頭単位で出てきます。
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地上部は芯のみ残し風化しているような細腕ほどの材でも、地中部で逞しく生存していたり。
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このように、無限に出土する幼虫に飽々することになりますが、成虫は中々見られず。本土ノコギリの場合は立ち枯れ直下に蛹室を作成している事が多い一方、本種はそこそこ深い箇所に蛹室を作っている印象でした。あくまで所感ですが、八丈は場所を問わず島全体の土壌が緩く蛹室を作るのに相応の深さが求められているように感じました。(ここ飼育に繋がるかもしれないヒント1.)ハチジョウノコギリは体色が殆ど黒色で、寸詰りな体型やノコギリ状の7本の内歯が特徴です。FullSizeRender

肝心のヒラタとの棲み分けに関しては後述しますが、ノコギリがかなり劣化、土化した材でも埋まってさえいれば利用する事に対し、ヒラタはある程度硬さがある、やや生の、水分が多い材を好みます。ヒラタが材の内部にギチギチと詰まっているケースが多い事に対し、ノコギリは材の表面近くに柔らかい食痕を走らせ、部屋のような物を作り巣食っているケースが殆どです。その為立ち枯れを蹴飛ばしたのみで幼虫が出てくることや、一刀目でクラッシュしてしまう事もしばしば。FullSizeRender

ハチジョウヒラタについて

ハチジョウヒラタに関しては少々面倒で、材の比較的深部に巣食っており、簡単に言えばノコギリ対比しっかりと割る手間が求められます。

個体数は可もなく不可もなくと言った具合で、概ね本州で言えば東海地方のヒラタ等と同程度の密度であるように感じました。IMG_5619

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先程水分が多い材を好む旨を記述しましたが、同時に水分が多い材は劣化が早く、ノコギリとの競合が発生してしまいます。意外にも本種を選択的に採集するには、やや乾燥気味の立ち枯れ根部を割ることが近道であるように感じました。(勿論地上部からはコクワが出る)IMG_5698

個体数が多い一部の海岸沿いでは乾燥によりフレーク状になっている立ち枯れの地上部からも得ることができました。ヒラタに関しても幼虫の数に比較して成虫を得られることがあまりなく時期ハズレを疑いましたが、十中八九私の実力不足でしょう。

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ヒラタとノコの幼虫判別については頭部の形状や色味判別する手法が主流ですが、巣食う材の水分量や雌雄差といった不確実な要素を多分に含む為、私は気門での判別が一番手っ取り早いと考えています。
ヒラタの気門が明瞭なc字を描く一方で
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ノコギリの気門はIの字形になります。
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その他クワガタについて

他にも八丈島にはコクワガタ八丈亜種、ネブトクワガタ八丈亜種、チビクワガタが生息しています。
赤い体色と細身の体躯、顎が特徴であるコクワは樹種を問わず一般的な白色不朽材から椰子科の樹木に至るまで幅広く利用しています。基本的には地上部の材を利用します。

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ネブトは腐植質が堆積する土壌に広く薄く生育しており、ヒラタ狙いで材を探していると副産物として多数得ることができます。本土の個体群(日本亜種)と比較して内歯が細くなるらしいですが、正直興味がありません... わざわざ赤枯れを割って回る必要はありませんが、勿論赤枯れからも多数得られました。
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他にもチビクワなどが生息していますが、チビクワが巣食う材は一般的に地上部のやや乾燥気味細枝や太材の表面のみ朽ちた箇所が中心であり、上記のような根食種が巣食う箇所とは全く異なる箇所に生育します。本種を多数採集できる採集者は...つまりそういう事です。
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そんなこんなで、初日で必要分の幼虫を確保。
雨天の為、この日は早々に切り上げて就寝。
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4.エピローグ

手抜きが透けて見えるようで恐縮ですが、2日目以降については伊豆諸島に多く自生している明日葉や、ヒラタを追加しつつ回収しつつ野湯などを満喫。

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最終的に合計8ポイントよりヒラタを得ました。出る幼虫を全て持って帰っていてはキリがないのでタラの芽を取るように1ポイントから数匹だけ持ち帰り、撤収。手抜きが透けて見えますがただヒラタを追加して回るだけの冗長な行程でしたので、詳細は割愛させていただきます。

個人的なエピソードをお話しすると、奇を衒い常人が行かないようなポイントに向かうべく垂直の崖を壁面に生える木伝いに登ったもののその先に何もなかったり
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最終日の夜中に月刊むしのヒラタポイントを知り、急いで回収に出かけなければならないタイミングで、雨天の中原因不明のパンクに見舞われたりといったことがありました。ちなみに、野湯に入りに行った際に何故か脱衣所に未就学児ほどの服と靴が、綺麗に畳まれた状態で残っており、不気味さを覚えた直後の出来事であります。

これまた余計な自分語りですが、私の採集遠征は「最終日は必ず徹夜する」といった恒例行事があります。大抵の場合夜中は雨が降り、泥塗れ傷だらけになりますが、それでも諦めず粘ると、明け方に成果が出るケースが多いです。そしてこれまた大抵の場合、夜明けと共に晴れ間が覗く為、さながらゲームのような、感動的なシチュエーションを臨むことができます。

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船内のシャワーで汗を流し、光る水面を眺め、海風を全身に浴びながらカップ麺を啜る。至上の幸福です。

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帰宅後はお土産で購入した島醤油で島寿司を、明日葉で天ぷらうどんを作ったりと、余韻を(物理的に)噛み締め、今回の旅は幕を閉じました。紹介が遅れてしまいましたが、八丈島ではワサビが手に入らない為、唐辛子を醤油とダシに漬け込んだ「島醤油」でネタを漬け込み、甘いシャリと西洋ワサビを合わせた「島寿司」といったグルメが特産です。
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結局、成虫のハチジョウヒラタB型は得られませんでした。目下幼虫を飼育中であり、この遠征が成功であったのか失敗であったのかは、役半年後に判明することになります。(本記事に追加する形で結果を発表するか、別途記事を設けるかは検討中です)確実に言えることは、材起こしの時期にポイントを絞り、割りに割く労力を必要最低限に留めることが勝利への近道である、という事です。


今回の記事は以上になりますが、このシリーズはあと2本続きます。